『ファントム』のクラシカルな楽曲では、
リリックな歌唱で誰をも黙らせた真彩の輝くソプラノの、
そのリリカルな軽さが、パッショネイトな迫力を求めるリリーの
ナンバーとはもうひとつフィットしないこともあって、
努力の跡が前に出ることも、
その努力の凄まじさが分かるだけに切ない気持ちが芽生えた。
ただ新しい時代の娘役像を感じさせていた真彩が、
こうした道具立ての中でやはり
「宝塚のトップ娘役」としてのカテゴリーから出なかったのは、
逆に美しい発見でもあったし、
おそらくリリーをオスカーと対等に演じることに怯まない人材を探すとしたら、
近年の宝塚歌劇では昨年退団した愛希れいかくらいしかいなかっただろう。
だからこの公演は、似合い過ぎるほと似合う口ひげをたくわえた、
余裕綽綽の大人の男の風体の中で、
ジタバタと可愛らしさを覗かせるオスカーを、
演技巧者ならではの可笑しみで演じきった望海の功績と、
その望海に今は立場を異にしている大スター役として体当たりしつつも、
ちゃんとトップスターを凌駕しないトップ娘役だった真彩の現雪組トップコンビが、
これまでにない役柄で舞台を生きたことを、
何よりの美点として記憶したいものになった。

このコンビに海外ミュージカルを演じさせたいのは至極最もだし、
コンビのコメディーを歓迎した観客の喝采が、
舞台を更に弾ませていった相乗効果にも、
やはり宝塚歌劇ならではの舞台と客席が創り出す美しい交感がある。