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煙草にアンパンマンを印刷したら喫煙率下がるだろ [無断転載禁止]©2ch.net
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0001774mgさん
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2016/03/27(日) 19:38:41.61ID:oq1nxI/1
なんでやらないのか謎
0799774mgさん
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2018/03/11(日) 05:25:13.31ID:uwhjXa2E
姉さんも今夜はするって云うから、――」
0800774mgさん
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2018/03/11(日) 05:25:29.10ID:uwhjXa2E
お絹は薄いを挙げて、じろりと慎太郎の顔を眺めた。
0801774mgさん
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2018/03/11(日) 05:25:44.87ID:uwhjXa2E
「僕はどうでも好い。」
0802774mgさん
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2018/03/11(日) 05:26:00.64ID:uwhjXa2E
「不相変慎ちゃんは煮え切らないのね。
0803774mgさん
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2018/03/11(日) 05:26:16.31ID:uwhjXa2E
高等学校へでもはいったら、もっとはきはきするかと思ったけれど。――」
0804774mgさん
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2018/03/11(日) 05:26:32.06ID:uwhjXa2E
「この人はお前、疲れているじゃないか?」
0805774mgさん
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2018/03/11(日) 05:26:47.81ID:uwhjXa2E
叔母ば半ばたしなめるように、癇高いお絹の言葉を制した。
0806774mgさん
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2018/03/11(日) 05:27:03.46ID:uwhjXa2E
「今夜は一番さきへ寝かした方が好いやね。
0807774mgさん
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2018/03/11(日) 05:27:19.22ID:uwhjXa2E
何も夜伽ぎをするからって、今夜に限った事じゃあるまいし、――」
0808774mgさん
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2018/03/11(日) 05:27:34.97ID:uwhjXa2E
「じゃ一番さきに寝るかな。」
0809774mgさん
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2018/03/11(日) 05:27:50.73ID:uwhjXa2E
慎太郎はまた弟のE・C・Cに火をつけた。
0810774mgさん
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2018/03/11(日) 05:28:06.39ID:uwhjXa2E
垂死の母を見て来た癖に、もう内心ははしゃいでいる彼自身の軽薄を憎みながら、………
0811774mgさん
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2018/03/11(日) 05:28:22.16ID:uwhjXa2E
それでも店の二階の蒲団に、慎太郎が体を横たえたのは、その夜の十二時近くだった。
0812774mgさん
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2018/03/11(日) 05:28:37.91ID:uwhjXa2E
彼は叔母の言葉通り、実際旅疲れを感じていた。
0813774mgさん
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2018/03/11(日) 05:28:53.67ID:uwhjXa2E
が、いよいよ電燈を消して見ると、何度か寝反りを繰り返しても、容易に睡気を催さなかった。
0814774mgさん
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2018/03/11(日) 05:29:09.59ID:uwhjXa2E
彼の隣には父の賢造が、静かな寝息を洩らしていた。
0815774mgさん
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2018/03/11(日) 05:29:25.38ID:uwhjXa2E
父と一つ部屋に眠るのは、少くともこの三四年以来、今夜が彼には始めてだった。
0816774mgさん
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2018/03/11(日) 05:29:41.15ID:uwhjXa2E
父は鼾きをかかなかったかしら、――
0817774mgさん
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2018/03/11(日) 05:29:56.86ID:uwhjXa2E
慎太郎は時々眼を明いては、父の寝姿を透かして見ながら、そんな事さえ不審に思いなぞした。
0818774mgさん
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2018/03/11(日) 05:30:12.54ID:uwhjXa2E
しかし彼のの裏には、やはりさまざまな母の記憶が、乱雑に漂って来勝ちだった。
0819774mgさん
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2018/03/11(日) 05:30:28.33ID:uwhjXa2E
その中には嬉しい記憶もあれば、むしろ忌わしい記憶もあった。
0820774mgさん
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2018/03/11(日) 05:30:44.07ID:uwhjXa2E
が、どの記憶も今となって見れば、同じように寂しかった。
0821774mgさん
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2018/03/11(日) 05:30:59.83ID:uwhjXa2E
「みんなもう過ぎ去った事だ。
0822774mgさん
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2018/03/11(日) 05:31:15.49ID:uwhjXa2E
善くっても悪くっても仕方がない。」――
0823774mgさん
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2018/03/11(日) 05:31:31.12ID:uwhjXa2E
慎太郎はそう思いながら、糊ののする括り枕に、ぼんやり五分刈の頭を落着けていた。
0824774mgさん
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2018/03/11(日) 05:31:46.90ID:uwhjXa2E
まだ小学校にいた時分、父がある日慎太郎に、新しい帽子を買って来た事があった。
0825774mgさん
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2018/03/11(日) 05:32:02.58ID:uwhjXa2E
それは兼ね兼ね彼が欲しがっていた、庇の長い大黒帽だった。
0826774mgさん
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2018/03/11(日) 05:32:18.34ID:uwhjXa2E
するとそれを見た姉のお絹が、来月は長唄のお浚いがあるから、今度は自分にも着物を一つ、拵えてくれろと云い出した。
0827774mgさん
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2018/03/11(日) 05:32:34.15ID:uwhjXa2E
父はにやにや笑ったぎり、全然その言葉に取り合わなかった。
0828774mgさん
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2018/03/11(日) 05:32:50.04ID:uwhjXa2E
姉はすぐに怒り出した。
0829774mgさん
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2018/03/11(日) 05:33:05.80ID:uwhjXa2E
そうして父に背を向けたまま、口惜しそうに毒口を利いた。
0830774mgさん
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2018/03/11(日) 05:33:21.59ID:uwhjXa2E
「たんと慎ちゃんばかり御可愛がりなさいよ。」
0831774mgさん
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2018/03/11(日) 05:33:37.24ID:uwhjXa2E
父は多少持て余しながらも、まだ薄笑いを止めなかった。
0832774mgさん
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2018/03/11(日) 05:33:53.01ID:uwhjXa2E
「着物と帽子とが一つになるものかな。」
0833774mgさん
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2018/03/11(日) 05:34:08.79ID:uwhjXa2E
「じゃお母さんはどうしたんです?
0834774mgさん
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2018/03/11(日) 05:34:24.58ID:uwhjXa2E
お母さんだってこの間は、羽織を一つ拵えたじゃありませんか?」
0835774mgさん
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2018/03/11(日) 05:34:40.36ID:uwhjXa2E
姉は父の方へ向き直ると、突然険しい目つきを見せた。
0836774mgさん
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2018/03/11(日) 05:34:56.13ID:uwhjXa2E
「あの時はお前も簪だの櫛だの買って貰ったじゃないか?」
0837774mgさん
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2018/03/11(日) 05:35:11.90ID:uwhjXa2E
「ええ、買って貰いました。
0838774mgさん
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2018/03/11(日) 05:35:27.68ID:uwhjXa2E
買って貰っちゃいけないんですか?」
0839774mgさん
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2018/03/11(日) 05:35:43.44ID:uwhjXa2E
姉は頭へ手をやったと思うと、白い菊の花簪をいきなり畳の上へ抛り出した。
0840774mgさん
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2018/03/11(日) 05:35:59.20ID:uwhjXa2E
「何だ、こんな簪ぐらい。」
0841774mgさん
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2018/03/11(日) 05:36:14.86ID:uwhjXa2E
父もさすがに苦い顔をした。
0842774mgさん
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2018/03/11(日) 05:36:30.63ID:uwhjXa2E
「莫迦な事をするな。」
0843774mgさん
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2018/03/11(日) 05:36:46.40ID:uwhjXa2E
「どうせ私は莫迦ですよ。
0844774mgさん
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2018/03/11(日) 05:37:02.17ID:uwhjXa2E
慎ちゃんのような利口じゃありません。
0845774mgさん
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2018/03/11(日) 05:37:17.93ID:uwhjXa2E
私のお母さんは莫迦だったんですから、――」
0846774mgさん
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2018/03/11(日) 05:37:33.57ID:uwhjXa2E
慎太郎は蒼い顔をしたまま、このいさかいを眺めていた。
0847774mgさん
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2018/03/11(日) 05:37:49.21ID:uwhjXa2E
が、姉がこう泣き声を張り上げると、彼は黙って畳の上の花簪を掴むが早いか、びりびりその花びらをむしり始めた。
0848774mgさん
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2018/03/11(日) 05:38:04.85ID:uwhjXa2E
姉はほとんど気違いのように、彼の手もとへむしゃぶりついた。
0849774mgさん
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2018/03/11(日) 05:38:20.61ID:uwhjXa2E
「こんな簪なんぞ入らないって云ったじゃないか?
0850774mgさん
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2018/03/11(日) 05:38:36.38ID:uwhjXa2E
入らなけりゃどうしたってかまわないじゃないか?
0851774mgさん
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2018/03/11(日) 05:38:52.14ID:uwhjXa2E
何だい、女の癖に、――
0852774mgさん
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2018/03/11(日) 05:39:07.91ID:uwhjXa2E
喧嘩ならいつでも向って来い。――」
0853774mgさん
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2018/03/11(日) 05:39:23.60ID:uwhjXa2E
いつか泣いていた慎太郎は、菊の花びらが皆なくなるまで、剛情に姉と一本の花簪を奪い合った。
0854774mgさん
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2018/03/11(日) 05:39:39.39ID:uwhjXa2E
しかし頭のどこかには、実母のない姉の心もちが不思議なくらい鮮に映っているような気がしながら。――
0855774mgさん
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2018/03/11(日) 05:39:55.03ID:uwhjXa2E
慎太郎はふと耳を澄せた。
0856774mgさん
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2018/03/11(日) 05:40:10.80ID:uwhjXa2E
誰かが音のしないように、暗い梯子を上って来る。――
0857774mgさん
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2018/03/11(日) 05:40:26.45ID:uwhjXa2E
と思うと美津が上り口から、そっとこちらへ声をかけた。
0858774mgさん
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2018/03/11(日) 05:40:42.21ID:uwhjXa2E
眠っていると思った賢造は、すぐに枕から頭を擡げた。
0859774mgさん
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2018/03/11(日) 05:40:57.97ID:uwhjXa2E
「お上さんが何か御用でございます。」
0860774mgさん
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2018/03/11(日) 05:41:13.63ID:uwhjXa2E
美津の声は震えていた。
0861774mgさん
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2018/03/11(日) 05:41:29.45ID:uwhjXa2E
父が二階を下りて行った後、慎太郎は大きな眼を明いたまま、家中の物音にでも聞き入るように、じっと体を硬ばらせていた。
0862774mgさん
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2018/03/11(日) 05:41:45.11ID:uwhjXa2E
すると何故かその間に、現在の気もちとは縁の遠い、こう云う平和な思い出が、はっきり頭へ浮んで来た。
0863774mgさん
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2018/03/11(日) 05:42:00.79ID:uwhjXa2E
これもまだ小学校にいた時分、彼は一人母につれられて、谷中の墓地へ墓参りに行った。
0864774mgさん
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2018/03/11(日) 05:42:16.54ID:uwhjXa2E
墓地の松や生垣の中には、辛夷の花が白らんでいる、天気の好い日曜の午過ぎだった。
0865774mgさん
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2018/03/11(日) 05:42:32.30ID:uwhjXa2E
母は小さな墓の前に来ると、これがお父さんの御墓だと教えた。
0866774mgさん
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2018/03/11(日) 05:42:48.07ID:uwhjXa2E
が、彼はその前に立って、ちょいと御時宜をしただけだった。
0867774mgさん
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2018/03/11(日) 05:43:03.84ID:uwhjXa2E
「それでもう好いの?」
0868774mgさん
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2018/03/11(日) 05:43:19.63ID:uwhjXa2E
母は水を手向けながら、彼の方へ微笑を送った。
0869774mgさん
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2018/03/11(日) 05:43:35.39ID:uwhjXa2E
彼は顔を知らない父に、漠然とした親しみを感じていた。
0870774mgさん
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2018/03/11(日) 05:43:51.15ID:uwhjXa2E
が、この憐な石塔には、何の感情も起らないのだった。
0871774mgさん
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2018/03/11(日) 05:44:06.90ID:uwhjXa2E
母はそれから墓の前に、しばらく手を合せていた。
0872774mgさん
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2018/03/11(日) 05:44:22.74ID:uwhjXa2E
するとどこかその近所に、空気銃を打ったらしい音が聞えた。
0873774mgさん
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2018/03/11(日) 05:44:38.50ID:uwhjXa2E
慎太郎は母を後に残して、音のした方へ出かけて行った。
0874774mgさん
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2018/03/11(日) 05:44:54.26ID:uwhjXa2E
生垣を一つ大廻りに廻ると、路幅の狭い往来へ出る、――
0875774mgさん
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2018/03/11(日) 05:45:10.01ID:uwhjXa2E
そこに彼よりも大きな子供が弟らしい二人と一しょに、空気銃を片手に下げたなり、何の木か木の芽の煙った梢を残惜しそうに見上げていた。――
0876774mgさん
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2018/03/11(日) 05:45:25.68ID:uwhjXa2E
その時また彼の耳には、誰かの梯子を上って来る音がみしりみしり聞え出した。
0877774mgさん
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2018/03/11(日) 05:45:41.47ID:uwhjXa2E
急に不安になった彼は半ば床から身を起すと、
0878774mgさん
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2018/03/11(日) 05:45:57.12ID:uwhjXa2E
「誰?」と上り口へ声をかけた。
0879774mgさん
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2018/03/11(日) 05:46:12.96ID:uwhjXa2E
声の持ち主は賢造だった。
0880774mgさん
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2018/03/11(日) 05:46:28.73ID:uwhjXa2E
「どうかしたんですか?」
0881774mgさん
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2018/03/11(日) 05:46:44.34ID:uwhjXa2E
「今お母さんが用だって云うからね、ちょいと下へ行って来たんだ。」
0882774mgさん
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2018/03/11(日) 05:47:00.15ID:uwhjXa2E
父は沈んだ声を出しながら、もとの蒲団の上へ横になった。
0883774mgさん
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2018/03/11(日) 05:47:15.92ID:uwhjXa2E
「用って、悪いんじゃないんですか?」
0884774mgさん
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2018/03/11(日) 05:47:31.59ID:uwhjXa2E
「何、用って云った所が、ただ明日工場へ行くんなら、箪笥の上の抽斗に単衣物があるって云うだけなんだ。」
0885774mgさん
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2018/03/11(日) 05:47:47.33ID:uwhjXa2E
それは母と云うよりも母の中の妻を憐んだのだった。
0886774mgさん
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2018/03/11(日) 05:48:03.37ID:uwhjXa2E
「しかしどうもむずかしいね。
0887774mgさん
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2018/03/11(日) 05:48:19.10ID:uwhjXa2E
今なんぞも行って見ると、やっぱり随分苦しいらしいよ。
0888774mgさん
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2018/03/11(日) 05:48:34.89ID:uwhjXa2E
おまけに頭も痛いとか云ってね、始終首を動かしているんだ。」
0889774mgさん
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2018/03/11(日) 05:48:50.66ID:uwhjXa2E
「戸沢さんにまた注射でもして貰っちゃどうでしょう?」
0890774mgさん
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2018/03/11(日) 05:49:06.40ID:uwhjXa2E
「注射はそう度々は出来ないんだそうだから、――
0891774mgさん
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2018/03/11(日) 05:49:22.15ID:uwhjXa2E
どうせいけなけりゃいけないまでも、苦しみだけはもう少し楽にしてやりたいと思うがね。」
0892774mgさん
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2018/03/11(日) 05:49:37.93ID:uwhjXa2E
賢造はじっと暗い中に、慎太郎の顔を眺めるらしかった。
0893774mgさん
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2018/03/11(日) 05:49:53.58ID:uwhjXa2E
「お前のお母さんなんぞは後生も好い方だし、――
0894774mgさん
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2018/03/11(日) 05:50:09.32ID:uwhjXa2E
どうしてああ苦しむかね。」
0895774mgさん
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2018/03/11(日) 05:50:25.14ID:uwhjXa2E
二人はしばらく黙っていた。
0896774mgさん
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2018/03/11(日) 05:50:40.99ID:uwhjXa2E
「みんなまだ起きていますか?」
0897774mgさん
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2018/03/11(日) 05:50:56.75ID:uwhjXa2E
慎太郎は父と向き合ったまま、黙っているのが苦しくなった。
0898774mgさん
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2018/03/11(日) 05:51:12.42ID:uwhjXa2E
「叔母さんは寝ている。
0899774mgさん
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2018/03/11(日) 05:51:28.19ID:uwhjXa2E
が、寝られるかどうだか、――」
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