ブランドの販路拡大は真っ当なビジネス戦略であり、実際に「ブランドも販路拡大により利益は上がっているはず」と林氏は言う。
ただそれは、結果的にブランドの希少性を奪った。

昔は「手に入れるまでの苦労がブランドの付加価値だった」と林氏。
しかし今は、「金額の高さを証明するアイテムという意味合いがより強くなった」と指摘する。
その結果、以前ほどブランドへの憧れは弱くなり、おしゃれとの関係が遠くなっていったのではないか。

「ファストファッションの台頭とブランドの販路拡大により、ファッションは『民主化された』と言えます。
かつては『いいな』と思っても手に入らない。だからこそそれが『おしゃれ』で憧れのスタイルでしたが、
今は全部が手に入る中での良いスタイルを『おしゃれ』と考える。そういった違いはあるでしょう」(林氏)
なお、ブランドについて言えば、「昔も今も、熱狂的なブランドのファンはいる」と林氏。
特に日本人男性はその傾向があり、20〜30万円のオーダーシューズや、100万円を超える高級時計、
あるいはブランドのバッグなどを買い続けている若者は少なくないという。
「ただし、そういった人たちはアクセサリ主導の趣味であり、時計や靴といった特定のモノだけに興味があります。
ファッション全体への興味や、全身のスタイルにおける『おしゃれ』との相関性は低いといえるでしょう」(林氏)
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昔の若者と今の若者で、「おしゃれ」はどう変遷したのか。
その変化と背景をまとめると、「ファストファッションの台頭」で、よりシンプル・ミニマルなスタイルを消費的に楽しむ傾向が強くなった。
加えて、「ブランドの販路拡大」により、ブランドものへの憧れは弱くなった。
その結果、若者にとってのおしゃれは、より身近で手頃なアイテムをどう楽しむかに変わってきたのだろう。
昔なら、おしゃれは「いつか手に入れたいスタイル」と憧れるものだったが、現代では「今すぐできる工夫のスタイル」といった目線になったのではないだろうか。
「こういったファッションの流れは、日本に限らず、先進国のほとんどが似た状況です。
流行服が安く手に入り、ブランドものの入手も苦労しない。そういった"デフレ"の状況は世界的に続いていくでしょう。