匿名を条件に取材に応じた審査委員はそう断ずる。エンブレム選出の当事者の口から飛び出した“不当”という厳しい言葉。選出の背景に深刻な問題があったことをうかがわせるが、

「今回の件が分かりづらくなっているのは、ベルギーのリエージュ劇場のロゴデザインを担当したオリビエ・ドビ氏が“盗作だ”として提訴した問題以外に、佐野氏がデザインを手掛けたトートバッグの盗作問題など、
制作者としての問題が複数噴出しているため。しかし、それとは別次元のこととして、調査しなければならないのが、最終案決定の経緯の不透明さについてです」

 7月24日に大々的に発表されたエンブレムは、審査委員がコンペで選んだ「原案」に2度の修正が加えられて出来上がったものである。
五輪組織委員会の森喜朗会長と武藤敏郎事務総長には、原案が決まった段階で報告。
また、武藤氏が記者会見で明らかにしたところによると、佐野氏側が1度目の修正案を示した際には、「躍動感がなくなった」という理由で再修正を依頼したという。

「そもそも、原案に似た商標登録がすでにあり、原案のままだと商標登録が通らない可能性があるので修正をかける、という報告は、審査委員は受けていない。
つまり、修正は審査委員への報告がないまま勝手に進められたことになる。極めて不適切なやり方です」

 と、審査委員は明かす。

「また、森氏と武藤氏が原案に対して意見を述べ、修正に関与し、最終案が制作されたことが事実なら、最終案はこの2人によって方向付けられ、判断され、決定したデザインということになる。
専門家ではない人がデザインに口を出すのであれば、何のために審査委員が集まってデザインコンペを行なったのか分からない。これは完全なるルール違反で、不当なコンペです」

 この審査委員が「修正」の事実を知ったのは、エンブレムが発表される直前だった。が、審査委員8人の中に1人だけ、早くから修正について把握していた人物がいる。
大手広告代理店「電通」の社員、高崎卓馬氏(45)。
彼はエンブレムの審査委員であるのと同時に、

「五輪組織委員会のクリエーティブ・ディレクターでもある。彼は、審査委員としてではなく、五輪組織委員会の人間として、エンブレ