5月16日

手塚治虫とアニメ 功罪両面で大きな足跡

NHK朝の連続テレビ小説「なつぞら」で、主人公がアニメ
ーターの道を歩み出そうとしている。それを見て不意に思
い出した言葉がある。
「僕は宮崎(駿)さんの作品は見ない」ー。十年ほど前、
連載「アニメ大国の肖像」で日本アニメの興隆に貢献した
人々を取材していた時、「あしたのジョー」や「エースを
ねらえ!」の監督、出崎統さん(一九四三ー二〇一一年)
からこう聞いて驚いた。好き嫌いはともかく、関係者で宮
崎アニメを見ない人などいないと思っていたからだ。
理由を尋ねると、宮崎氏が「手塚(治虫)さんの悪口を言
うから」。合点がいった。確かに宮崎氏は常々、出崎さん
が敬愛する手塚氏のアニメ制作手法を批判していた。
アニメの魅力は何と言っても「絵が動く」こと。ただ、動
きがリアルな「質の高い」アニメをつくるには、大量の絵
が必要で、巨額の制作費がかかる。だが、アニメ制作会社
「虫プロ」を設立して業界に参入した手塚氏は一九六三年、
毎週三十分もののテレビシリーズ「鉄腕アトム」を実現す
るため、破格の費用で制作を請け負い、その分、絵の枚数
を抑え、動きを犠牲にした。不足する資金は関連商品の著
作権収入で補填した。
邪道にも見えるこの手法はその後定着し、制作会社が安価
で請け負うのが当たり前になった。結果的に現在まで、ア
ニメ産業の労働者が低賃金にあえぐ原因を作ったのが手塚
氏だーというのが、宮崎氏の批判の核だ。もっとも、その
中には、アニメの動きを蔑ろにしたことに対する怒りも含
まれている気がする。