★中国が風呂に入ることを教えてやるまで垢で真っ黒だったチベット土人★

出典:河口慧海『チベット旅行記』(1904年)の「第五十八回 不潔なる奇習」

彼らは元来生れてから身体(からだ)を洗うということはないので、阿母(おっか)さんの
腹の中から出て来たそのままであるのが沢山あるです。都会の人士はまさかそうでもないが、
田舎にいたる程洗わぬのを自慢として居る。もし顔を洗ったり手先を洗ったりすることが
あれば大いに笑ってその取締のない事を嘲(あざ)けるのです。そういう訳ですから、
白いところと言ったらば手の平と眼の玉とである。ほかは全く真っ黒である。

もっとも田舎人士の中でもその地方の紳士とか僧侶とかいう者は顔と口と手だけは幾分か
洗うものですから、そんなに汚なくもありませんけれども、やはり首筋から背中、
腹に至っては真っ黒なんです。アフリカ人の黒いのよりもなお黒いのがある。
で、手の平がなぜ白いかと言いますに、向うでは麦粉を捏(こね)る時分に手でもって
椀の中でその麦粉を捏る。であるから手の平に付いて居る垢(あか)は麦粉の中に
一緒に混って入ってしまうんです。それで手の平には垢がない。
まあ垢と麦焦(むぎこが)しとを一緒に捏て喰うといううまい御馳走なんです。
そういう御馳走をです、黒赤くなった歯糞(はくそ)の埋(う)もれて居る臭い口を
開(あ)いて喰うのです。それを見ただけでも随分胸が悪いのです。