ソヴィエトの指導層は「2001年宇宙の旅」に対抗できるSF映画が共産圏に必要だと考えた。
彼らの期待に乗っかる形でタルコフスキーは「ソラリス」を撮った。ぬけぬけとSF映画のフリをして。
だが、タルコフスキーの狙いは共産革命が滅ぼした古くて偉大なロシアの秩序を賛美することにあった。
ソラリスの海を否定し、畏れ、直面できずに発狂する科学者たちの姿こそ、教会を否定する共産体制下に
おける民衆の写し絵に他ならない。ソヴィエト革命は原罪を取り除かなかったが、それではたして人間は
死ねるものなのか。党は天国など存在しないと言うが、それでは自分の魂を誰がどうやって救済するのか。
かつてキリスト教を信じた人々が深刻なアイデンティティ危機に曝される。それがこの映画の真意だ。