「近松物語」で死に向かいながら微笑む女性も、本作で暗闇に突き落とされる紗和も、
不道徳な道に進みながら、しかしそこから真実の「生きる実感」に到達するのである。
不倫劇を鑑賞している我々観客に対して、寿命の少ないホタルが束の間の命の光を暗闇
に灯しているような、彼女が見せる凄絶な姿は、我々に「あなたは本当に生きているのか?」
と訴えかけてくる。それが本作の真におそろしいところである。