以下「映画についての雑談」(1975)より
(『THE KUROSAWA黒澤明全作品集 姿三四郎から乱まで』1985、
『大系黒澤明 第4巻』2010に再録)

 《本当に映画を愛している若い人たちの、映画に対している姿勢は、僕が接しているかぎり
ではみんなそれなりに正しいと思う。ただ、一人前になるためには、僕個人の力ではどうに
もならない。
 これは政治の責任なんだ。政治が映画を無視しているかざり、僕にはどうしようもない。
だから僕は、いつもはっきり言うんだが――しかし、 これは新聞記者諸君は絶対書いて
くれない――要するに自衛隊の戦闘機2機ぶんをよこせ、1機ぶんでもいいっていうこと
です。そうしたら、この人たちの映画学校も出来るし、作品を作らせることも出来る。僕
はもっと激烈なことをいつも言ってるんだけれど、それがいつも無視されている。編集長が
削るのかその前に削ってしまっているのかわからないけれど。だから書いても刺身のツマ
みたいに書くだけ。政府がほんとうに日本文化を大切にするというのなら、 日本映画も
大切にしてほしい。戦闘機の1機や2機多くたって少なくたって大した事はないじゃない
か。その予算をくれたら、日本映画は立ち直ります。僕は責任を持つ。日本映画を立ち直ら
せるには、現実的に金が無きゃだめです。映画学校もつくれない。もちろんそこで優秀な
人が育つとは限らないけれど、とにかく実験させるだけのものを作ってやらせてみなけれ
ばどうしようもない。不幸にして、この年代では僕一人生き残ってすごくらいけれど、何
とかしなきゃ死にきれない思いなんだ。》