《『天国と地獄』で使った煙突の煙のぼたん色、これもプリントによって一つ一つ違う。
ぼたん色がよく出ているのもあれば、そうでないのもある。しかし、これからは部分着色
のテクニックも、もっと効果的に出来るようになるのじゃないかな。映画のカラーはこれ
からです。事実、フランスのシネマテークで、エイゼンシュタインの『イワン雷帝』、
これは20年以上も前のものだけれど、宴会のシーンですばらしい色を使っていた。彼は
使いたい色を使いたいように使っていた。今だって難しいのだから、当時は大変だった
と思う。僕が、カラーをほとんどやってこなかったというのも、色〈カラー・フィルム〉
っていうのは統率がきかない。こちらの意思のままにならないということで。それがイヤ
だなと思って。『どですかでん』は、それだったら地面でも、人間でも、何でもいいから
染めちまえっていうことになった。最初は人間も染めようかと思ったくらい。それに今
のカラー撮影は、照明が間違っている。色を出すために、総べてに光を当てようとする。
僕はそうじゃなくて、照明は白黒と同じでいい、色が出ないでもいい、むしろもっと黒
を出せ、出せって言ったのが『デルス・ウザーラ』の月、あそこでは黒がよく出てい
ます。ほんとうの黒というのは、赤が下地になっていないと出ない。黒の紋付、あれ
などは赤で下染めしないとすぐ陽にやけて、羊羹色になってしまう。だから、セットを
作る場合でも、もっと下塗りを研究する必要があると思う。》