拝啓 志賀春樹くん

ようやくこれをみつけましたね。遅い遅い。
春樹、春樹って呼んでいい。前からそう呼びたかったんだ。
短い間だったけど、そばにいてくれてうれしかったよ、ありがとう。

「なかよしのつもりなんじゃないかな、彼女。いやや、わかんないけど」
「森下さん、また明日」
「また明日ね、栗山くん」

病院で真実と挑戦ゲームをやったあのとき、何を聞こうとしたか教えてあげる。
それはね、どうして私の名前を呼んでくれないの、ってこと。
だって春樹ぃ、私の名前を一回も呼ばなかったでしょ。
最初からずっと、君、君、君、ひどいよぉ。
でもね、病院に忍び込んでくれたとき、気付いたんだ。
いずれ失うってわかってる私を、友だちや恋人、特別な誰かにしたくないんだって。

でも私、そんな春樹に憧れてた。誰とも関わらないで、たった一人で生きている、強い春樹に。
私は弱いから、友だちや家族を悲しみに巻き込んじゃう。

でもね、春樹はいつだって自分自身だった。
春樹は本当にすごいよ。だからその勇気をみんなにも分けてあげてください。
そして誰かを好きになって、手をつないで、ハグをして、うっとおしくても、まだるっこしくても、たっくさんの人と心を通わせて、私の分まで、うん、生きて。

私ね、春樹になりたい。春樹の中で生き続けたい。
うぅーん。こんなありふれた言葉じゃだめだよね。
そうだね、君は嫌がるかもしれないけど、私はやっぱり、
君の膵臓をたべたい。