おれは今日と先週と、都合2回観た。

1回目を観た後に台本をざっと見てみたけれど、
ト書きとセリフみた限りでは、この演出を
あり得ないと否定するような根拠は見いだせなかった。
どうも台本をむりやりねじ曲げた、というわけではなさそうだよ。

まず、この作品については、ドラマとして欠陥があることを認識するべきだ。
つまり、ベートーベンはまぎれもない楽聖であるものの、
戯作家としてのセンスはモーツァルトやヴェルディに比べると弱い。

従って、この作品も2幕後半については、その音楽は最高に素晴らしいものの
ドラマとしては単なる茶番劇のイメージでね。
だいたい2幕後半になると観客は音楽を集中して聴いているけれども
舞台のほうはぼんやり眺めているだけ、という感じでね。

ところが、今回の演出は2幕後半を大胆に改変することによって
少なくとも舞台上にものすごい緊迫感をうみだしたことは確かだ。
これにより、この作品の欠陥をカバーして
ひとつのドラマとして完成させたように見えるね。

実際、今回は、2幕後半にさしかかると
観客全員が固唾をのんで舞台に集中していた。
これから何が起きるかわからない、って感じでね。
この点については今回の演出は高く評価されるべきだと思う。

ただ、こういう演出は、やる人間によって評価が変わるだろうね。
つまり、日本人がやれば殺されるかもしれないが、
ドイツ音楽の中枢にいるワーグナー家であれば許されるのかもしれない。
そう考えれば、今回のプロジェクトはなかなか希少価値があって
良かったんじゃないかね。