国土破れてもデータあり エストニア「仮想国家」で成長

バルト海に面した人口130万人余りのエストニアが、世界で最も進んだ電子政府を実現している。ブロックチェーン技術で行政のデータが改ざんされない仕組みを築いた背景には、外国による占領の歴史があった。
デジタル空間にデータを保存できれば、たとえ国土は消えても国は残る――。ディスラプション(創造的破壊)の先に、北欧の小国が築いた新しい「国家」は未来の社会へのヒントを示している。
スカンジナビア半島の対岸に位置するエストニアの首都タリン。世界遺産の旧市街のカフェで、大学生のアナスタシア・ウィラさん(19)がパソコンに向かっていた。
国民に付与されるIDカードの情報を入力し、議会選の投票を10分足らずで済ませた。預金残高や病院の受診記録など、自分のデータは全てIDにひも付いている。
「子どもの頃からIDカードを使ってきた。情報は守られており、不安はない」
エストニアは2000年代以降、住民登録や納税、教育、子育てなどあらゆる行政手続きを電子化した。国民にIDを割り当て、手続きは24時間、インターネットで完了する。
3月の議会選では投票した人の2人に1人がネット経由だった。ネットでできないのは、結婚と離婚、不動産売買だけ。電子化による費用削減効果は国内総生産(GDP)の2%に上る。
IDカードは運転免許証や保険証を兼ね、欧州連合(EU)域内ではパスポート代わりにもなる。恩恵は国民にとどまらない。非居住者が電子上の国民になれる「e―レジデンシー制度」を14年に始めた。
仮想国民も国民と同様に法人を設立したり銀行口座を開設したりできる。すでに165カ国から5万人が登録し、6600社が設立された。日本からも安倍晋三首相ら2500人が登録している。