「なぜ20年以上も日本の賃金は下落している?」中野剛志が指摘する“本当の理由”
ttps://bunshun.jp/articles/-/41712
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「2つの成長戦略」を区別せよ。アベノミクス継承では「賃上げ」できない|中野剛志
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デフレなのに財政支出を抑制

 日本の財政は、その赤字額の大きさから、放漫財政であるかのように批判されてきたが、それは根本的に間違った認識だ。図Aに
あるように、過去20年間、憲法によって健全財政を規定しているドイツですら、財政支出を拡大してきたのに、日本は抑制し続けてきた。
しかも、この間、日本は、消費税率を5%から10%へと2倍にし、民間消費を促進するどころか、逆に抑制してしまった。
 図Bは、公共投資額(公的固定資本形成)の推移だ。日本がデフレに突入したおは1998年であるが、その前年から公共投資の
削減が始まっている。アベノミクスによって公共投資が増えたようなイメージがあるが、実際には、1995年時の6割にも満たない。
需要不足で公共投資を増やすべき時に、逆に減らしてきたのだから、需要不足が解消するはずもない。これでは、賃金が下落しない
方が不思議なくらいである。

低金利なら財政拡大が有効

 敢えてMMTを持ち出さずとも、主流派経済学の権威であるオリヴィエ・ブランシャール、ローレンス・サマーズ、ポール・グルーマン、
あるいは元FRB(連邦準備制度理事会)議長のベン・バーナンキやジャネット・イエレンなどが、低金利下での財政赤字の拡大は
問題ではないとし、むしろ積極的な財政支出を求めている。「低インフレ、低金利、低成長下においては、財政政策が最も有効である」
というのは、今日では、主流派経済学においてもコンセンサスであると言ってよい。

2つの「成長戦略」を区別する

 政府の労働者保護規制が強いことも、賃金上昇の圧力になる。…(略)…
 …(略)…そうなると企業は、「人件費の削減以外の方法」によって、競争力を維持・強化し、利益を増やすしかなくなる。…(略)…
設備投資やイノベーションに成功した企業は、人件費を削減することなく、利潤を増やすことができるであろう。
 …(略)…要するに、「賃金上昇圧力」が経済成長の“原動力”として作用しているのである。

 …(略)…しかし、80年代あたりを境に、日本の成長戦略は、次第に「賃金主導型」から「利潤主導型」へと移行していった。
…(略)…いわゆる「構造改革」とは、「利潤主導型成長戦略」とほぼ同じと考えてよい。 

「企業利潤拡大圧力」を優先

「企業利潤」を増やすうえで、一番手っ取り早い方法は、人件費をカットすることである。…(略)…こうして、1999年、労働者派遣事業
が製造業などを除いて原則自由化され、2004年には製造業への労働者派遣も解禁された。
 さらに、「企業利潤拡大圧力」を強めることも効果的である。その圧力を生み出すのは、投資家である。…(略)…
 2003年の改正商法では社外取締役制度が導入され、外資による日本企業の買収が容易になった。2005年には会社法が
制定され、株式交換が外資に解禁された。安倍前政権下の成長戦略においても、一連の「コーポレートガバナンス改革」により、
投資家の発言力を強める政策が推進された。その結果、日本企業の外国人持ち株比率は、1990年代半ばまでは1割程度だった
のに、2006年には全体の約4分の1になり、最近ではおよそ3割を占めるに至っている。
     …(略)…
 …(略)…2018年、入国管理法が改正され、2019年4月から一定の業種で外国人の単純労働者を受け入れることとなったが、
これは「利潤主導型成長戦略」の考え方に基づく政策と言える。

過去20年間に何が起きたか

 すでに述べたように、進展する少子高齢化は生産年齢人口を減少させるから、人手不足となり、本来であれば、「賃金上昇圧力」
となるはずであった。しかし、財政支出の抑制による需要不足に加えて、かくも強力な「利潤主導型成長戦略」が行われてしまっては、
上昇するはずの賃金も下落するほかなかったのである。
     …(略)…
 それだけではない。…(略)…したがって、「利潤主導型成長戦略」は、「賃金主導型成長戦略」ほど、経済を成長させないのである。
 過去20年間の日本経済が、それを立証している。…(略)…(図C)。そして、日本経済全体も、ほとんど成長することなく、停滞を
続けたのである。