『経済思想のドイツ的伝統』 メンガーの章より

しかし、経済学などの社会科学の特質は、個々の分析的理論に還元されるものではない。
数式的に表現されれば同一になる理論であっても、学者ごとに、
その理論を構成する変数の定義や解釈、妥当範囲などは多様である。
経済理論は、それを現実の経済現象と関連づける、
経済主体とその環境についての理解の枠組みなしには存在しえない。
シュンペーターが言うように、経済分析のツールに注目する場合でも、
その背後にあるビジョンを無視することはできない。(中略)

しかし、メンガーはそのような数学的定式化は、経済理論の性質を誤解させかねないものだと考えていた。
彼にとって、人間の経済行動は、個々人の主観的評価に基づく選択であって、
それを数式で表現すると客観的な決定論になってしまうと危惧していた。