『金融緩和で日本は破綻する』は読んでないけど、野口悠紀雄の記事は、経済雑誌で
しょっちゅう読んでるから、言いたいことはわかる。

もちろん文章の8−9割は正しい。
しかし、致命的なのは、この人の1−2割の部分が、とてつもない、現実経済音痴すぎるのが
問題なわけ。

目次の大部分はすごくあたりまえな一般論。

第1章 金融政策はどう行なわれるか
第2章 効果がなかった量的緩和
第3章 大規模為替介入と円安バブル
第4章 日銀による財政赤字のファイナンス
第5章 金融緩和でデフレ脱却はできない
第6章 世界を混乱させるアメリカ金融緩和QE
第7章 金融緩和のエンドレスゲームに突入する世界
第8章 金利高騰は大問題
第9章 財政赤字と金融緩和で国家は破綻する

書いてることもあたりまえだと思う。
ベースマネーの供給ではマネーストックはふえないから、期待するような効果はない。
財政ファイナンスになってることも事実。
世界の金融緩和がエンドレスゲームになるというのは、この人がマーケットというのが、
ずうっと同じトレンドが続くと思ってることで間違い。

その他のことも正しい部分がかなり多いけど、この人は、致命的な現実経済のメカニズムを
知らないこと。
たとえば、この人の書いたもので、批判を浴びたのはこれ。

『野口 悠紀雄 :デフレ脱却期待による円安で輸出は増えない 「異常な円高で輸出不振」はウソ 』

現実に現実的な金融緩和をやっていないにも関わらず、安倍政権になってから、自動車株の
株価は、1.4倍程度に上がった。
これはものすごいことで、たとえばトヨタの時価総額は、5兆円増加し、その分銀行の持ち合い株も
上昇し銀行の資産も増え、個人投資家の資産も増えた。
そして、トヨタの営業利益は、4300億円増える。

このことは、鉄鋼メーカー、ガラスメーカー、プラスチックメーカー、半導体メーカー、部品の輸送トラック、
そのトラックの従業員のスーパーの消費や、ファミレスの消費、住んでるアパートの収入まで影響を
与える。
さらに、トヨタを主体とする中小零細は、2万社あり、そこの従業員の内需消費まで誘発する。

もちろんトヨタだけではない。マツダの営業利益は、最近のほんのわずかな円安だけで、2倍にもなった。
そのくらい影響を受けてしまう。

さらに、それが何を引き起こすかっていうと、製紙業という、ドル建てで紙の材料を買ってきて、円高が
メリットになる石油燃料の高額運賃で日本まで運び、さらに電気と石油という、円高になると利益が
出る典型的な産業である製紙産業まで、輸出産業の復活で需要が増えて、利益が増える。
株の上昇によりマインドも好転し、海外逃避企業も現実に減少した。

そういう、超現実論が彼にはまったく欠落している。
野口 悠紀雄 :デフレ脱却期待による円安で輸出は増えないってのは、ネットで探せば内容がいくらでも
書いてあるし、それに対する2ちゃんのスレもあり、わかりやすい反論がいくらでも出ている。

そういう根幹部分が、現実離れしてるから、どんなに著書の8−9割が正しいことを書いてても、
全体として間違っているってこと。