菅総理よ、「改革」を売り物にするなかれ
亡国の改革至上主義 藤原正彦
ttps://bunshun.jp/articles/-/41416
国家観なき菅総理の「亡国の改革至上主義」
ttps://bungeishunju.com/n/ne7ddefe4e675

 2004年の労働者派遣法改正では、製造業にも派遣労働者が解禁されたから、2008年のリーマンショックまでの4年間に、派遣労働者は
170万人も急増した。逆にリーマンショック後の4年間には、150万人の急減を見た。…(略)…この法改正で起業は、正規社員に比べ経費
が半分以下ですむ非正規社員を増やしたから、2019年までに非正規社員は650万人も増加した。とりわけ35歳未満の非正規社員数は
550万人ほどにふくらみ、彼等の平均収入は200万人以下だ。これでは結婚も子育ても難しいから、我が国の少子化は加速するし、消費も
増えずデフレ不況は終らない。格差社会の元凶ともなっている。安い労働力として外国人をも派遣労働者の形で使おうと、単純労働者の
移民を大幅に増やした。ヨーロッパの混乱の轍を踏むことになる。派遣労働者を製造業に解禁する、という経済上の何気ない改革が、
連鎖反応を起こし、日本の社会を混乱と苦境へと追いこむことになったのである。なおこの改革の旗振りだった竹中平蔵氏は、現在、
売上高で業界三位の人材派遣会社パソナグループの取締役会長である。

     郵政民営化のあやまち

 2005年の第改革、郵政民営化はその後どうなったか。この改革は、アメリカのジャパンハンドラーの一人、ケント・カルダーが350兆円に
上る郵貯と簡保に目をつけ、1993年に「郵貯の活用が低迷する世界経済の活性化につながる」という論文を著したのが始まりだった。
「その大金を日本で使わせずアメリカで使おう」という、「日本財布論」が生まれたのである。…(略)…アメリカは日本の経済成長を大目に
見ていたが、冷戦が1990年頃に終り共産主義国が消えるや、日本を経済上の敵国と見なし始めた。軍事上の無二の盟友アメリカの変貌
に、日本は気づかなかった。アメリカは翌1994年から毎年、「年次改革要望書」を日本につきつけ、郵政民営化を迫った。…(略)…
郵貯や簡保はそれまで、財政投融資や公共投資の原資として、戦後の経済成長や地方活性化などに活用されてきたものだった。
 …(略)…一部の人々が危惧した通り、ゆうちょ銀行が2015年に上場された時、社長はシティバンク銀行の元会長、運用部門トップは
ゴールドマン・サックス証券の元副会長となった。そして、ゆうちょ銀行スタート直後の2008年に保有していなかった米国債など外国債は、
2019年には62兆円へと激増している。一方で日本国債の保有は、159兆円から53兆円と激減している。アメリカの目論見通りとなったのだ。
日本人が汗水たらして稼いだ金を、日本で使わせないのだから、地方の衰退や国内産業の空洞化に拍車がかかるわけである。郵便局も
会社化されてから400余り減った。この売国的とも言える郵政民営化を、何か外圧でもあったのか、我が国の政官財ばかりか大メディア
までが一致して賛同し、郵政選挙ではメディアに洗脳された国民が熱狂的に支持したのである。賢いはずの日本国民があれほど熱狂的に
小泉竹中改革を支持したのには、二つの理由がある。

     新自由主義の強要

 一つは政府による欺瞞である。小泉竹中改革のほぼすべてが、アメリカからの「年次改革要望書」や「日米投資イニシアティブ報告書」
の中で要請されたものであったことを、国民に知らせなかったのだ。あたかも首相直下の経済財政諮問会議や規制改革会議から出てきた
案であるかのごとく装った…(略)…なお、1994年から「年次改革要望書」が我が国につきつけられていた事実は、2009年に政府が認める
まで何と15年間、国民には秘密にされていた。