熊野純彦『マルクス 資本論の思考』
https://www.amazon.co.jp/dp/4796703268 2013/9 せりか書房 506頁より

第V篇 資本の転換

三部門構成への改変
 再生産表式論を展開するにあたってマルクスは、生産部門のうちで第I部門(生産
手段生産部門)第U部門(消費手段生産部門)を区別していた(本書、II・3II
参照)。生産手段とは、言いかえるなら生産財であり、消費手段あるいは生活手段は
主要には労働者用の消費財のことである。この二部門については、とりあえずその
ままとしておく。マルクスもまた、拡大再生産を問題とするにさいし、部門Uにかん
しては、通常の「消費手段」と「奢侈消費手段」という、いわば「亜部門」への分割
をみとめている(本書、II・3・3参照)。
 ボルトケヴィッチは、この亜部門を第III部門として独立させる。これがボルトケ
ヴィッチにあっては、問題を分析するさいの方法的枠組みとして重要な意味をもつ
ことになるだろう。再生産表式を素材補填の関係としてとらえる場合、奢修品は
産出の側にはあらわれるにもかかわらず、投入の側にはあらわれないことになる
からである。
 いま、資本の構成部分を示す記号はマルクス的な標記を採用して、マルクスのいう
単純再生産を考えてみる。単純再生産が可能となるためには、第 I 部門において、
その総資本価値が三部門全体の不変資本価値と一致し、第II部門にかんして、それが
三部門全体の可変資本価値と合致し、第III部門をめぐっては、剰余価値の総計とひと
しいことが必要である。
 これを「価値表式」として簡略に示せば、つぎのようになる。ただし添え字1〜3
は部門I〜IIIの別を示す。

I(生産財生産部門)c1 + v1 + m1=c1+c2+c3
II(消費財生産部門)c2+v2+m2=v1+v2+v3
III(奢侈財生産部門)c3+v3+m3=m1+m2+m3

 そのうえで、 一般利潤率をr、第Iから第III部門について、価値と生産価格の乖離
率をそれぞれ x、y、z として、「生産価格表式」として示すとすると、つぎのとおり
である。ただし、利潤率は1未満の小数であらわし、それを費用価格1に対して加算
したものを、費用価値部分(乖離率との積にもとづいて価格タームで計算)に掛ける
ことで生産価格が計算されるものとする。

I(生産財生産部門) (1 + r) (c1x + v1y) = (c1+ c2 + c3) x
II(消費財生産部門) (1 + r) (c2x + v2y) = (v1 + v2+ v3)y
III(奢侈財生産部門) (1 + r) (c3x + v3y)=(m1 + m2+ m3) z

 この三つの式を連立方程式ととらえて、その解法を考えるとき、問題が数理的なか
たちで明確になる。