母「相手は誰です?」
娘「あの……べつに……」
母「うそォ言いなさい。相手はどなたですゥ?」
娘「あの……おッ母さんがいいと思うかた……」
母「そんな話がありますか。重二郎様ですか、金之助様ですか? それとも花之丞様……」
娘「いいえ……」
母「相手はだァれ?」
娘「だれでもいいの……」
 誰でもいいのってェのは“恋病い”じゃない。ただ、男が恋しくなっちゃうんですナ……。
 だが、この娘さんは、なんしろ妊娠をしてるッてンですから、誰でもいいってェわけにはいかない。
母「おまえ、赤ちゃんができたんじゃないか。相手をお言い、相手を……」
 ッてんで、いくらたずねても、どうしても言わない。
母「相手がなくって、おまえ……赤ちゃんができるわけがないじゃないか」
 といって、娘の手文庫を調べてみたら、その例の……張形が出て来た。
母「これで赤ちゃんができンですか。えッ、おまえこれで赤ちゃんができるとでもいうのかい?」>
 といいながら、おッ母さんが、その張形をヒョイッとうらがえしたら、“左甚五郎作”と書いてあった――。>