職場で中途採用された新人は英検1級
保持者だ。海外営業候補として採用され、国内営業を通して、法人営業のOJT中であった。
某日、会社に海外子会社からの出張者が来た際に、上司に「英検君、簡単な通訳頼むよ」と言われ、突然の能力評価の試練に、英検君は胴震いした。何故なら英検君は、今までネイティブと言葉を交わしたのは、語学留学生活での店員との受け答えのみで、会話と言えるようなことを経験したことがなかった。店員が聞いてきた簡単な質問でさえ一回で聞き取れたことはなかったし、英検1級の英語が店員に通じなかった事実があった。
英検1級保持者としての砂で作ったピラミッドのように脆いプライドが、入社3日目で崩れることになるとは、想定外だった。英検君「I am Shingo, pleasure to meet you.」ネイティブ「nice to meet you, too. But I'm taken.」出張者からの返答は予想外でパニクった、すぐ上司から助けが出た「英検君の名前がsingleに聞こえて勘違いしてるんだよ」
挨拶で躓くとは、東京ドームで一斉に笑いが沸き起こったような気がしたが、現実には数人いるだけの中小企業の薄暗い事務所だった。
想定外続きの状況に採用時には富士山頂に昇った気分は、一気に樹海まで落ちた。精神的にも英語力でも未熟な英検1級君は、助けてくれた上司を心の中で激しく非難し、試用期間で解雇されるだろうと思い込み、入社から4日目に自ら退職した。 数年後、元勤務先雑居ビル付近で、英検君に似た不審な人物が目撃されていた…