墨液には普通の濃さというのがある。中濃→濃墨→超濃…とどんどん濃い製品が現れる現在では、普通濃度の墨液は薄く感じもする。
普通濃度とは、水100に対して煤が10%のものであるが、これは恐ろしく濃い。墨を磨った場合 簡単には此の濃さにはならない。
此の濃さだと、書いたものが紙を完全に被服する濃さで、つまり柄のある紙に書くと、柄が完全に見えなくなる濃さである。
書いた線の動きや透明感など、作品の味を消してしまう。
美術館でぜひ作品を見てほしい。二文字など迫力重視のものならともかく、多字数作品ではまず無いはずである。
「墨が薄いとサラサラし過ぎて掠れなどの効果が得られないのでは!?」という意見が出るだろう。
墨には、煤の重量100に対して60%以上の膠が含まれる。この大量の膠が適度な粘度があり、濃くしなくても作品効果が得られるのである。
しかし墨液は違って、真っ黒に濃く、粘度が低く書きやすいカーボンインクというコンセプトで作られ、墨液の膠量(合成糊材を含む)は極端に少ないのだ。
墨液もある意味 優れたインクであるが、あくまでお習字用。書作品用ではないのである。
昭和の巨匠 青山杉雨は、真っ黒に濃い超濃墨作品で荒々しい線の作品、墨でも墨液でも違いは分からないだろうという声がある。
実際に弟子らには墨液で十分!と言っていた話は有名である。たしかに墨液を使う弟子もいた。しかし、杉雨自身は墨を使っていたという話しがある。