>>79
今東光氏の自伝的小説の「青春の自画像」の「神戸の赤マント」から。
「この赤マントの今井あさ路は元町の秤屋の金持ちの息子で黒々とした長髪を肩までたらしオスカー・
ワイルド気取りに赤いカシミアのマントを曳るように歩いていたから、流石のハイカラな神戸市民も
目を丸くして驚いた。」
今井朝路氏の個展に猥褻として摘発に来た警察官にも、今井の朝やんは、
「わての絵は、あんたらのようなド頭の固い人には見ても解らんやろが肉眼で見るのんと
ちやう(違う)ねん。心眼。わかりまっか。武道でも言いまっしゃろ。心眼で見る限り目ェつぶっとっても
金的を射抜けるんや。何所が猥褻で、何所が風俗壊乱かはっきり指摘して貰いまひょ。
せやなかったら須磨警察は官憲の暴力によって展覧会を叩き潰したと法廷に訴えますし、新聞社を歴訪して訴え
続けまっせ。こんなわからずやの無茶おまっかいな。」
警察は「貴様は社会主義者やな」と怒鳴った。
おおむね官権を振り廻す奴は理屈に詰まると国賊社会主義者とぬかすのが落ちだ。そこで僕は
「おい、今井君。今から神戸へ去んでお前とこの顧問弁護士を連れて訴訟しようやないか。」
警部は顧問弁護士を抱えている坊々かと周章ててすたこら逃げ帰って仕舞った。
今井あさ路も、どうした間違いか丹波篠山の軍国教育で有名な武断的鳳鳴塾で上級生と
半死半生の喧嘩をして放校になるくらいの上玉だから、田舎警部ぐらいではビクともしないのだ。」