憲法は「政府への命令」?

 ラミスさんの主著に『憲法は、政府に対する命令である。』(2006年、平凡社)があります。
国家と国民の関係を社会契約論などに基づいて分析し、最終的にはこんな結論に至ります。
 「憲法に命令として従う義務があるのは国民ではなく、政府である」
 国民は積極的に社会契約したという意識が希薄だが、国家は間違いなく契約の当事者だという理屈です。
「権力の抑制」の究極の形が「政府への命令」説だと思います。

 では、主流派の憲法学者はどう説明しているのでしょうか。1999年に亡くなった芦部信喜東大名誉教授の
『憲法 第四版』は「憲法は自由の基礎法である」と説きます。すべての個人は生まれながらに
自由に活動する権利がある。その自由主義を法的に保証する仕組みが憲法であるという考え方です。
 憲法が成り立つためには、自由主義という近代社会の基本ルールが人々に浸透していると同時に、
「法の支配」という考え方が重要になります。

 個人の裁量は信用せず、統一的なルールを定め、誰が裁判官だろうと、ぶれがないようにするのが
「法の支配」です。それを象徴するのが英国の法律家エドワード・コーク(1552〜1634年)の次の言葉です。
 「国王は神と法の下にあるべきである」

 芦部氏は
(1)市民階級が立法過程へ参加することによって自らの権利・自由の防衛を図る
(2)「法の支配」はその点で民主主義と結合する
――と説きました。
市民が王を抑制するには、国民の声を反映する議会が制定する法によって王の行動を制限するのがよいと考えたのです。

 憲法がこの世に登場した近代では、王と市民という対立構造が明確でしたが、現代では主権は市民が持ち、
市民と市民の意見が相いれないことがあるという時代になっています。

以上、引用終わり

http://college.nikkei.co.jp/article/90125010.html