本拠地、銀座で迎えた上京戦
先発ベコが大量失点、打線も勢いを見せず惨敗だっだ
東京に響く婆さんと爺さんのため息、どこからか聞こえる「俺らこんな村いやだ」の声
無言で帰り始める若者達の中、昨年の首位打者俺らは独り田舎で泣いていた
田舎で手にした栄冠、喜び、感動、そして何より信頼できる山・・・
それを今の銀座で得ることは殆ど不可能と言ってよかった
「どうすりゃいいだ・・・」俺らは悔し涙を流し続けた
どれくらい経ったろうか、俺らははっと目覚めた
どうやら泣き疲れて眠ってしまったようだ、冷たい数珠の感覚が現実に引き戻した
「やれやれ、帰って馬車引ぐだ」俺らは苦笑しながら呟いた
立ち上がって伸びをした時、俺らはふと気付いた

「あれ・・・?テレビも無ェ・・・?」
田舎から飛び出した俺らが目にしたのは、外野席まで埋めつくさんばかりの婆さん爺さんだった
千切れそうなほどに数珠が、地鳴りのように空を拝めていた
どういうことか分からずに呆然とする俺らの背中に、聞き覚えのある声が聞こえてきた
「たまには来てやるぞ」声の方に振り返った俺らは目を疑った
「回・・・回覧板?」 「なんだお前、かってに銭コァ貯めやがっで」
「巡査・・・」  俺らは半分パニックになりながらスコアボードを見上げだ
1番:俺ら 2番:巡査 3番:婆さん 4番:爺さん 5番:ベコ
6番:内川 7番:馬車 8番:カラオケ 9番:回覧板
暫時、唖然としていた俺らだったが、全てを理解した時、もはや彼の心には雲ひとつ無かった
「東京へ・・・東京へ出るだ!」
ベコからグラブを受け取り、グラウンドへ全力疾走する俺ら、その目に光る涙は悔しさとは無縁のものだった・・・

翌日、銀座で冷たくなっている俺らが発見され、吉村と村田は病院内で静かに息を引き取った