最先端技術を用いた古人骨全ゲノム解析から東南アジアと日本列島における人類集団の起源の詳細を解明
https://www.kanazawa-u.ac.jp/wp-content/uploads/2018/07/180709.pdf

今回、ゲノム解読がなされた縄文人骨は、愛知県田原市の伊川津(いかわづ)貝塚遺跡から出土した
約2千500年前の縄文晩期の女性人骨で、縄文人の全ゲノム配列を解読した例としては世界で初めての公表となります。

この縄文人骨1個体の全ゲノム配列をもとに、現代の東アジア人、東南アジア人、8〜2千年前の東南アジア人など
80を超える人類集団や世界各地の人類集団のゲノムの比較解析を実施した結果、
現在のラオスに約8千年前にいた狩猟採集民の古人骨と日本列島にいた
約2千500年前の一人の女性のゲノムがよく似ていることが分かりました。

このように、本研究は、縄文時代から現代まで日本列島人は大陸南部地域の人々と遺伝的に深いつながりがあることが、
独立した複数の国際研究機関のクロスチェック分析によって科学的に実証された初めての研究として位置付けられます。

【研究成果の概要】

本論文で国際共同研究チームは、DNAの保存環境として最も悪い東南アジアの遺跡出土人骨25個体と
日本の縄文人骨1個体の計26個体の古人骨からDNA抽出を実施し、ゲノム配列決定に成功しました。
得られた古人骨ゲノムデータと世界各地の現代人集団のゲノムデータを比較した結果、
東南アジアに居住していた先史時代の人々は、6つのグループに分類できることが分かりました(図3)。

グループ1は現代のアンダマン諸島のオンゲ族やジャラワ族、マレー半島のジャハイ族と遺伝的に近い集団で、
ラオスのPha Faen遺跡(約8千年前)から出土したホアビン文化という狩猟採集民の文化を持つ古人骨と、
マレーシアのGua Cha遺跡(約4千年前)の古人骨がそのグループに分類されました。
また、このグループ1に分類された古人骨のゲノム配列の一部は、
驚くことに日本の愛知県田原市にある伊川津貝塚から出土した縄文人(成人女性)のゲノム配列に類似していたことが分かりました。
さらに、伊川津縄文人ゲノムは、現代日本人ゲノムに一部受け継がれていることも判明しました。

一方、他のグループ2〜6は農耕文化が始まる新石器時代から約500年前までの古人骨で、
ホアビン文化の古人骨とは遺伝的に大きく異なっており、
それぞれ異なる拡散と遺伝的交流(すなわち混血)の歴史を持っていることが分かってきました。
グループ2はムラブリ族などの現代オーストロアジア語族と遺伝的に近く、
現代東アジア集団とは遺伝的な構成要素をあまり共有していないことが分かりました。
さらにグループ1と東アジア集団が分かれた後に、グループ1からグループ2への混血の痕跡が見つかりました。
また、グループ3は現代東南アジア集団のタイ・カダイ語族やオーストロネシア語族と遺伝的に近く、
グループ4は現代の中国南部地域の人々と遺伝的に近いことも分かりました。
さらに、グループ5は、現代のインドネシア西部の人々と遺伝的に近く、
グループ6は、いわゆる旧人に分類される古代型人類であるデニソワ人からの部分的な混血の痕跡なども見られました。

【今後の展開】

本研究で得られた東南アジア古人骨および縄文人骨のゲノムデータは、
広く東アジアの人々の起源研究の基礎情報として活用されると期待されます。
また、縄文時代における古人骨の全ゲノムデータは、現代の韓国、中国、ロシアなどといった
日本列島周辺に同時期に居住していた東アジア集団との遺伝的な類似性を直接比較することを可能にしました。
現在、より広い地域の人類集団との比較研究を進めています。
また、本研究の縄文人の全ゲノム配列決定は、
ヒトゲノム計画など現代人のゲノム解析におけるドラフト配列(Draft Genome Sequence)決定に相当します。
今後は、より精度の高い配列決定(Complete Genome Sequence)を目指します。

本研究は人類学と考古学が綿密な協力のもと得られたもので、
縄文人の起源と多様性に関する研究の一つのスタート地点に立ったと言えます。
今後、より多くの地域から複数の縄文人骨のゲノム解析をすることで、
縄文人の遺伝的な多様性を列島規模で評価できるようになります。
そうすることで、地域間の人々との交流の実態や、土器や石器などの考古遺物といったモノの流れと、
ヒトの流れの関係性の評価につながると期待されます。
このように本研究の成果を礎に全く新しい人類学・考古学の発展が期待されます。