変化を恐れず、考えうるすべての策を試みることが必要だろう。その上で鍵になるのは、「社会の成員すべてが、希望通りに自分の力を発揮できる社会」だと私は思う。性別役割意識の根強さのもとで能力を生かしきれない女性、引退後に居場所を失った高齢者、言葉のハンディを負いながら日本で働く外国人……。あらゆる人が、持てる力を解き放つ機会を得られたら、人口減を補う大きな力になる。
 かけ声倒れに終わった前政権のスローガン、「1億総活躍」に似てはいるが、そこは細心の注意が必要だ。目指すべきは、人を「使い捨ての労働力」と見なさない社会である。次世代を生み育むことを、誰もが自由に選択できる国にするためにも。
 残念ながら今の日本は、逆の方向を向いている。世界121位という国辱的なジェンダーギャップ指数、身分制とすら言われる非正規雇用の待遇、劣悪な労働条件が指摘される外国人技能実習制度と、枚挙にいとまがない。そして、この国はすでに大きな失敗を犯している。人口の多い団塊ジュニアを氷河期世代として低賃金・不安定雇用に追い込み、結果として少子化をさらに推し進めてしまった。
 「社会の持続可能性を維持できないほどの低出生率は、いわば国民投票のようなものであり、今の国のあり方に対してノーと言っているのに近い」と社人研元副所長の金子隆一・明治大学特任教授は指摘している。
 その通りだと思う。個の思いの集積が日本を形作る。満員電車に乗る人も、そうでない人も、一人ひとりが、この問題に向き合う時が来ている。
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