◆「朝日ぎらい」な人々が世界各国で急増している理由
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180711-00056469-gendaibiz-bus_all


「朝日新聞」を批判する言説は、今やひとつのマーケットを確立したと言っていいほど巷に溢れている。

世界を善と悪に分割してしまえば自分の立ち位置が安定するし、仲間がいるから安心できる。そういうシンプルな生き方しかできない人が、日本にも世界にもものすごくたくさんいます。


日本の右傾化については、その象徴として「ネット右翼」の存在が取り上げられますが、彼らのイデオロギーは保守=伝統主義とは関係がありません。
彼らが守ろうとしているのは日本の伝統や文化ではなく、「自分は日本人である」という、きわめて脆弱な「アイデンティティ」です。

「日本人」というアイデンティティしかないから、中国や韓国から日本を批判されると、自分が直接攻撃されたように感じて強い怒りを覚える。
しかし、言葉が通じないなどの物理的制約があって、ソウルや北京に乗りこんで抗議行動を起こすことはできない(もちろんそんな度胸もない)。

彼らにはどうしても「(安全に叩ける)敵」が国内に必要で、そこで、東京の新大久保や大阪の鶴橋でヘイトデモを行ったり、中国や韓国の主張に一定の理解を示す朝日新聞や、リベラル系の政治家を激しく攻撃したりするのです。

つまり、「日本の右傾化」の正体とは、嫌韓・反中を利用した「アイデンティティ回復運動」のことなのです。

いわゆる「慰安婦問題」にしても、「私は強制的に売春婦にされた」と声をあげる女性が出てきたら、彼女たちの損なわれた人権を取り戻すのがリベラルの立場です。
国際社会では慰安婦問題は女性の人権問題で、北朝鮮によって拉致された被害者・家族の人権の回復を目指すのも同じです。
「北朝鮮による拉致は人権問題で、慰安婦は歴史問題だ」という右派の使い分けが相手にされないのは当然です。

2013年、オバマ前大統領が二度目の大統領就任式に臨んだ際には、歌手のビヨンセがアメリカ国歌を歌い、場を盛り上げました。
ところが昨年1月に行われたトランプ大統領の就任式では、依頼されたすべての歌手が参加を断ったようです。

その理由は彼らが「反トランプ」だからではなく、世界各国にファンを持つ「グローバルなスター」だからです。
同様に、世界でビジネスを展開するグローバル企業も、経済合理性で考えれば、リベラル化するしか道はありません。
中国での売り上げが日本より何倍も大きいのに、経営トップが「南京大虐殺は幻だった」などと言えば、たちまち巨大な中国市場を失ってしまいます。

「人種や国籍、性別にかかわらず、すべての人(顧客)を平等に扱う」というリベラルの普遍原理を貫徹しない限り、世界でビジネスを行うことはできない時代なのです。

もうひとつ指摘しておきたいのは、これからの日本のリベラルは「国の愛し方」を示さなければならないということです。

戦後の「朝日的リベラル」は、「愛国」と「軍国主義」を同義であるとして厳しく批判してきました。
その結果、「生まれた国をなぜ愛してはいけないのか」という素朴な疑問にうまく答えられなくなり、「愛国」を右翼の独占物にしてしまった。
こうして日本的リベラルは「愛国でないもの」――すなわち「反日」のレッテルを貼られることになったのです。

ここに、「朝日ぎらい」の大きな理由が潜んでいることは間違いありません。

敗戦や植民地の歴史を持つ国民は、自国の近現代史に屈折した感情を抱いてしまうものです。
アメリカでは、リベラルな知識人でさえ「デモクラシーを守るために戦い、勝利した」というシンプルな「正義の物語」を奉じていますが、世界的にはこうした「愛国リベラル(Patriotic Liberal)」はごく当たり前の政治的立場です。
なぜなら、国を愛していない者には国について論じる理由がないから。

日本は戦争に敗れた1945年に、軍国主義と一緒に愛国主義を葬ってしまい、それから長い間、「新しい愛国の物語」を作ることに失敗してきました。
「朝日ぎらい」を乗り越えるには、リベラルこそが、(リベラルとして)国を愛する論理を構築し、提示する必要があるのではないでしょうか。