「飛鳥の原に百済の花が咲きました」 兪弘濬 [著] ; 橋本繁訳

B 「安らかに宿るところ」から「明日の地」に

日本には飛鳥という地名をもつ場所が四〇カ所もあるという。
『日本書紀』『万葉集』などの古代の文献には、飛鳥の表記が「安須可」「飛鳥」「明日香」「安宿」などさまざまに出てくるが、すべて「あすか」と発音する。
そのなかで、初期の渡来人が住んでいた大阪河内の「近つ飛鳥」というところは、本来「安宿」と表記したという。
「安らかに宿るところ」という意味である。
そうだとすると、朝鮮半島を遠く離れた厳しい旅の末に、ようやく平穏に留まれる場所を得たという意味ではないだろうか。

その後、この地は新たに来た渡来人が溢れるようになった。
彼らを今来とよんだ。彼らは、ここを離れてまた別の飛鳥を捜し出した。彼らが到着した場所が、今の飛鳥である。
この時から大阪の飛鳥を「近つ飛鳥」、奈良県の飛鳥を「遠つ飛鳥」と呼ぶようになった。

ところで、遠つ飛鳥をなぜ明日香または飛鳥と表記したのだろうか。
これについて李御寧先生は、吏読式の朝鮮語で読むと飛鳥は飛ぶの「ナル」、鳥の「セ」で「ナルセ」すなわち「明日」になり、明日香の明日はそのまま「明日」で香は郷と発音がちかいので、どちらも「明日のサト」という意味になると解釈した。卓見である。

明日への希望! 故郷を離れてきた渡来人の希望がこめられた地名である。