>>628
《続き》
【伊藤】 結局、コミュニストでソ連のスパイと疑われていたハーバート・ノーマンに比べて、はるかにまともだった、
エドウィン・ライシャワーの客観的な対日歴史観も否定されつつある。それも悪しき修正主義ですよね。ライシャワーの最後
の弟子ともいうべきジョージ・アキタはまだ現役で活躍していますが、それ以外の人たちはほとんど“アンチ・ライシャワー”
路線ですからね。ハーバード大学のアンドルー・ゴードンも。そうでないとアメリカの大学では、日本研究者として就職でき
ない。
 私のゼミにいた人たちの多くもそちらへ行ってしまった。
       (中略)
【江崎】 折角、「日本暗黒史観」ともいうべき近代日本の見方をライシャワーが、『日本近代の新しい見方』(講談社現代
新書)などで軌道修正してくれたのに、ジョン・ダワーのようなニュー・レフト(新左翼)の研究者がいつのまにか台頭し、
路線闘争をやり、ライシャワーの路線が次々に修正された。ニュー・レフトのジョン・ダワーたちが、アメリカの学会の対日・
アジア研究を乗っ取ってしまった。そのことをハワード・ショーンバーガーが左の立場から誇らしげに書いていました
(『占領1945〜1952 戦後日本をつくりあげた8人のアメリカ人』)。
       (中略)
 先日、『アメリカはなぜ日本を見下すのか? ―間違いだらけの「対日歴史観」を正す』(ワニブックスPLAS新書)の著者
であるジェイソン・モーガンというアメリカの歴史学者が日本に来て、Willでインタビューしたのですが、アメリカの歴史学会は
日本よりひどい、というんですね。左翼と新左翼の歴史学会しかなくて、公平で中立的な歴史を研究することが許されない。
新左翼のジョン・ダワー一派が乗っ取ってしまったみたいです。
【伊藤】 ダワー一派に属していないと職もないし、研究費ももらえないのです。
       (中略)
【江崎】 私は、アメリカの新左翼の日本研究のトレンドを、保守派の運動家の立場からウォッチしてきました。ノーマンを
再評価したダワーが出て来てから、日本国民は、「日本の軍国主義者の犠牲者」ではなくて、「アジアに対する加害者」で
あり、今後は日本の加害責任をより追及すべきであり、具体的には、東京裁判で追及されなかった天皇とアジアに対する
戦争責任を追及するかどうかで日本の民主化を評価する――というふうに歴史観を修正させられてしまった。…(略)…
 新左翼によるその基本的な考え方が確立されたのが1970年代。それに基づいて「従軍」慰安婦、南京事件、731部隊などの
日本の加害責任を問う研究が日米同時並行で行われるようになった。日米両方の左翼系知識人たちが、「過去完了形」とも
いうべき日本の加害責任ばかりを追及し、それに関して異論をはさもうとするとリビジョニスト(修正主義者)のレッテルを貼る。
歴史と政治の運動の流れを見るとそういうことになるんですよね。…(略)…
       (中略)
【江崎】 先日、米軍でインテリジェンスに関わってきた人と話をする機会がありましたが、天安門や新疆ウイグルなどの
大量虐殺から目をそらすために「南京大虐殺ホロコースト論」を、死刑囚の臓器売買を追及されないために「731問題」を、
国連などで喧伝するのが中国共産党の戦略だと指摘していました。
 また、中国は女性が少ないので、ベトナムやカンボジアなどから女性を拉致して、人民解放軍の兵士たちにあてがっており、
そのセックス・スレイブの問題を隠蔽するために慰安婦問題を利用しているとも。要は、中国共産党政府は自分たちの
「現在進行形」の悪事を隠蔽するために、日本の「過去完了形」の戦争犯罪を大きく騒ぎ立てるわけです。その潮流の中で、
アイリス・チャンが『レイプ・オブ・南京』(1997年)を書いて、アメリカで日本軍による「南京大虐殺」について騒ぎ立てた。
       (中略)
【伊藤】 安倍政権を支えている人たちの考え方は戦勝国史観でしょう。北岡伸一さんも加藤陽子さんほどではないにしても
そうです。彼は昔とイメージが変わりましたね。…(略)…
【福井】 北岡氏はアメリカをよく見ています。冷戦が終わってから、アメリカの指導層の歴史認識というか歴史政策に大きな
変化・修正が生じた。…(略)…ソ連共産主義がファシズムと並ぶ悪であったかどうかという歴史論争はもういいと。それに
合わせて、日本でも、左翼ではない親米派の学者が軌道修正していった。
《続く》