日本が"真珠湾攻撃"を決断した本当の理由
陸軍・悪玉、海軍・善玉はもう古い
学習院大学 学長 井上 寿一
ttps://president.jp/articles/-/29349

根強く語られるルーズベルト陰謀論

 戦後の日本外交史研究は、日米開戦史研究だったと言っても言い過ぎではないほど、質量ともに膨大な知見を生み出し、
通説を打ち立てている。
 それでも根強いのがルーズベルト陰謀論である。この陰謀論がまちがっていることは、歴史実証主義の研究者にとって
常識である。

 それでもルーズベルト陰謀論はなくならない。ルーズベルト陰謀論は、真珠湾攻撃=日本の「卑怯な騙(だま)し討ち」
との非難を躱(かわ)すことができるからである。ルーズベルトが陰謀を働いたのであれば、悪いのはアメリカであり、
日本の方こそ騙されたことになる。

 戦後の日本外交史研究の関心は別の所にあった。それは要するに開戦回避の可能性だった。時間の経過とともに
狭められながらも、開戦回避の可能性は直前まであった。

 日米開戦は日本からさきに手を出さなければ回避できたのだから、11月26日のハル・ノートをめぐって交渉を続けること
にも意味はあった。交渉が続けば、ほどなくして東南アジアは雨期に入る。作戦行動がとりにくくなる。そこへドイツに
対するソ連の反攻が始まる。対米開戦に踏み切る前提となっていた欧州戦線におけるドイツの優勢が崩れる。開戦を決意
するのはむずかしくなる。開戦は回避される。