然るに便衣隊は交戦者たる資格なきものにして
害敵手段を行ふのであるから、
明かに交戦法規違反である。
その現行犯者は突如危害を我に加ふる賊に擬し、
正当防衛として直ちに之を殺害し、
又は捕へて之を戦時重罪犯に問ふこと固より妨げない。)

 ただ然しながら、彼等は暗中狙撃を事とし、
事終るや闇から闇を伝って逃去る者であるから、
その現行犯を捕ふることが甚だ六ヶしく、
会々捕へて見た者は犯人よりも嫌疑者であるといふ場合が多い。

 嫌疑者でも現に銃器弾薬類を携帯して居れば、
嫌疑濃厚として之を引致拘禁するに理はあるが、
漠然たる嫌疑位で之を行ひ、
甚しきは確たる証拠なきに重罪に処するなどは、
形勢危殆に直面し激情昂奮の際たるに於て多少は已むなしとして斟酌すべきも、
理に於ては穏当でないこと論を俟たない。(P126)

信夫淳平『上海戦と国際法』


「便衣隊とは−−、交戦者たるの資格をみとめざる常人にして自発的に、
又は他の示唆を受け、敵兵殺害又は敵物破壊の任に
当る者を近時多くは便衣隊と称する。」

信夫淳平『戦時国際法講義2』