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「このような書は、脳神経科学への信頼を失わせる」
日本神経科学学会の会長から名指しで批判された疑似科学書『脳内汚染』。
その疑似科学の理論をそのままに、インターネットなどに攻撃対象を拡大させた疑似科学書。

本書の中でも使われている根本理論、「ゲームをすると、覚醒剤並にドーパミンが放出される」。
これが、元の論文を悪質に改竄したものであるからタチが悪い。
この理論の元となった論文とは「脳内ドーパミン分泌量を計測する方法を確立するためのための実験。
被験者に成績に応じて賞金を払うという普通にゲームをするよりも興奮する状態を作り計測。
また、覚醒剤注射も被験者に行うもので、依存症にならないような形を取っていた」というものである。
勿論、元の論文では「ゲームは覚醒剤と同じである」などとは書かれていないし、
他の活動との比較もない。にもかかわらず、「ゲームは麻薬」などと言ってしまっているのである。
極めて悪質な改竄といわざるを得ない。

またこの書で新たに出した「重度のゲーム依存症患者には、麻薬中毒者と同じような脳内の乱れがあった」というものであるが、
これは解釈を間違えている。
というのは、どんなものであっても「重度の依存症」の人は存在するためである。
例えば、重度のアルコール依存症の人にも脳の萎縮などが見られる、というのは周知の事実である。
しかし、飲酒する人の大多数がアルコール依存症になるのだろうか? 違うことは明白である。
重度の依存症の人の脳に乱れがあるから、と、ゲームは麻薬と同じ、というのは全くのデタラメである。

そのほか、本書の中では「DSM5で、ゲーム、インターネット依存症が加わった」と述べている。
これも不正確である。
DSM5での扱いはあくまでも「今後の検討課題」というだけのものである。
著者は、なぜ不正確な表現をするのだろう?
当然のことながら、DSM5ではアルコール障害(依存症)なども、正式な依存症として扱われている。
つまり、DSM5に正式に掲載されたとしても、著者が言うような「ゲーム=麻薬」ということにならないのは明白である。

本書の中で著者は何度も、「ゲーム業界の陰謀で、ゲーム依存症などが周知されない」という頭の悪い陰謀論を示している。
著者は、『真面目な人は長生きする』の中で、「その書のベースとなった研究が知られていないのは、
健康業界にとって都合が悪いからだろう」と陰謀論を展開している。
ここでわかるのは、著者の主張に反対するものは全て誰かの陰謀、という陰謀論が大好きな人間である、ということである。
しかし、そもそも、著者の主張が学術研究の場で広まることはそもそもありえない。
なぜなら、著者は学術研究を一切していないからである。
06年に著者は、雑誌取材に対して「論文を準備中」と応えているが、それから8年、未だに論文は発表されていない。
そして、その間に、小笠原慧名義での暴力小説などを執筆している。
本当に社会のことを心配するなら、本書のように煽り文句と改竄と誘導で作られた疑似科学書を一般向けに書くのではなく、
学術論文を書き、まず、専門家に知らしめるべきではないのだろうか?