>>269
「〜このやうな「法律の留保」による規制方式に対する批判としては、法律によつていくらでも制約できるから人權保障が弱いとする見解がある。
しかし、この見解は、多くは國民主權論者から主張されてゐるが、國民主權からすると議會で制定される「法律」もまた國民主權主義に悖ることはないはずであつて、
法律に對する懷疑は、國民主權への懷疑となつて、大きな矛盾が出てくるのである。
前に述べた立憲主義と國民主權主義の矛盾と同じ隘路に迷ふことになる。
むしろ、人權事項の詳細について法律が定められないとすれば、當然に行政裁量等が擴大し、いきなり行政處分による人權侵害が生まれることに對して無力となる。
つまり、「法律の留保」を懷疑する見解は、占領憲法では、この「法律の留保」を認めずに、これに代へて「公共の福祉」による制限を設けたことについて肯定的に評價するのであるが、
「公共の福祉」といふやうな抽象的で不明確な「一般原理」による規制方式にこそ重大な缺陷があることに氣づいてゐないのである。
占領憲法第十三條後段には、「生命、自由及び幸福追求に對する國民の權利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の國政の上で、最大の尊重を必要とする。」として、
人權全般の制約原理として「公共の福祉」を掲げてゐるが、占領憲法は、この「公共の福祉」とは何かといふことについて、何ら規定せずに沈黙してゐる。」