https://news.yahoo.co.jp/byline/satoshihiramatsu/20171226-00079722/
馬上からチラリと空を見上げた武豊は右手を天に向け小さくガッツポーズ。さらに2度、3度と夕陽に赤く染まる雲が浮かぶ天を見上げたのだ。

 その行為にどんな意味があったのか?

 セレモニーが終わった後、本人に問うと、最初は「そんなことしていたかなぁ?」とトボけたものの、その後、2人の名前を挙げて「報告しました」と語った。

 1人は「父」。往年の名騎手であり、昨年の夏に他界した武邦彦。彼に有馬記念を勝ったことを伝えたと言う。

 そして、もう1人。思わぬ人物の名を彼は挙げた。

「あと、後藤浩輝にも報告しました」

 これが20戦目で引退の1戦となったキタサンブラック。デビュー戦は2015年の1月31日だったが、その時、騎乗したのが後藤浩輝だった。
後藤と共に初めてファンの前に姿を現した鹿毛の若駒は、強烈な勝ち方をしてみせた。後に数々の栄冠を手にするキタサンブラック物語の幕明けは後藤浩輝と共にあったのだ。

 しかし、それから1カ月と経たない2月27日、後藤は唐突に逝ってしまった。

 武豊がキタサンブラックとコンビを組むのは1年以上後のことである。つまり、騎乗するからといって後藤から何かを聞いたということもなかったはずだ。
それでも彼は今は亡き戦友に報告をした。その事実を聞き、武豊が抱えていたであろう一つの重圧を初めて知った思いがした。

 キタサンブラックを無事に繁殖にあがらせる。それはこの馬が名馬だから、というだけではない。
キタサンブラックのその後の大活躍をみることなく星となった同志・後藤浩輝のためにも、それが使命だと、日本一のジョッキーは考えていたのだろう。

あのガッツポーズは武邦さんとゴッティーに向けてやったんか