「人はええ。馬はどないなったんじゃい」
携帯に届いた落馬報告に、そうまくし立てた馬主。人とはジョッキー。それも昨日初めて手綱を
とったばかりのアンちゃん騎手。
問題はそれで終らなかった。今度は所属厩舎と馬主が、生産ファームの担当者をはさんでこじれた。
結局は同じ冠がつけられた所有馬のすべてが転厩。最悪の形で幕がおろされた。
唇を噛み、うつむくアンちゃん。が、まさに「親」であり、管理馬という財産をなげうち、
体を張って自分を擁護してくれた調教師への恩は金輪際忘れまい。
「もう、あの人の馬には跨りません」
顔をあげ、キッとまなじり決したアンちゃん。思わず調教師に熱いものがこみ上げる。
これで東西2人目の騎乗拒否宣言となった。