遠征地、阪神競馬場で迎えた宝塚記念
先頭パンサラッサが逃げ切り勝ち、エフフォーリアは中団で揉まれ惨敗だった
スタジアムに響くファンのため息、どこからか聞こえる「やっぱり早枯れだな」の声
無言で帰り始める選手達の中、昨年の年度代表馬エフフォーリアは独り地下馬道で泣いていた。
有馬記念で手にした栄冠、喜び、感動、そして何より信頼できる鞍上・・・
それを今のチームで得ることは殆ど不可能と言ってよかった
「どうすりゃいいんだ・・・」エフフォーリアは悔し涙を流し続けた

どれくらい経ったろうか、エフフォーリアははっと目覚めた
どうやら泣き疲れて眠ってしまったようだ、冷たい藁の感覚が現実に引き戻した
「やれやれ、帰ってトレーニングをしなくちゃな」
エフフォーリアは苦笑しながら呟いた
立ち上がって伸びをした時、エフフォーリアはふと気付いた

「あれ・・・?お客さんがいる・・・?」
地下馬道から飛び出したエフフォーリアが目にしたのは、最奥まで埋めつくさんばかりの観客だった
千切れそうなほどに馬券が振られ、地鳴りのようにおじさんの怒号が響いていた
どういうことか分からずに呆然とするエフフォーリアの背中に、聞き覚えのある声が聞こえてきた
「エフフォーリア、返し馬だ、早く行くぞ」声の方に振り返ったエフフォーリアは目を疑った
「た・・・武史さん?」 「なんだエフ、居眠りでもしてたのか?」
「こ・・・コントレイル種牡馬?」 「なによエフ君、勝手にコントレイル君を引退させちゃって」ムキッ
「グランアレグリアサン...」
エフフォーリアは半分パニックになりながらターフビジョンを見上げた
1番:コントレイル 2番:カデナ 3番:モズベッロ 4番:ローズ 5番:エフフォーリア 6番:トーセンスーリヤ 7番:ワールドプレミア 8番:サンレイポケット 9番:グランアレグリア
暫時、唖然としていたエフフォーリアだったが、全てを理解した時、もはや彼の心には雲ひとつ無かった
「勝てる・・・勝てるんだ!」
ポタジエを抜き去りゴールへ全力疾走するエフフォーリア、その目に光る涙は悔しさとは無縁のものだった・・・

翌日、馬房で冷たくなっているエフフォーリアが発見され、吉村と村田は病院内で静かに息を引き取った