「リーガルマキシム・現代に生きる法の格言・名言 三修社」 六十五項
Das Ziel des Rechts ist der Friede,das Mittel dazu der Kampf.
法の目的は平和であり、そのための手段は鬪爭である。
イエーリング「權利の爲の鬪爭」

イエーリングは次のやうに問ひかける。すなはち、權利が侵害された場合「權利
を主張して侵害者に抵抗すること、すなはち鬪ふことを選ぶのか、それとも鬪爭
を避ける爲に權利を見捨てるべきか」と。この問ひに對する彼の答へは次の物で
ある。人間は肉體的な生存だけでなく、倫理的なものとしての生存も重要であり
そのための條件が權利の主張、人格の自己主張なのである。それゆゑ、不法な權
利侵害は人格の侵害でもあり、それを見過ごすことは、自己の人格の抛棄、倫理
的自殺に他ならないとして、權利の主張は「權利者の自分自身に對する義務」と
されるのである。さらに、權利の鬪爭は權利者の自分自身に對する義務だけでなく

「國家共同體に對する義務」でもある。
といふのも、權利者は自分の權利を守ることによつて同時に法律を守り、
法律を守ることによつて同時に

「國家共同體の不可缺の秩序」

を守ることに繋がるからである。

「權利のための鬪爭」のなかで彼が強調する點は、國家にとつて、國民の權利感覺
にも揩オて貴重な保護育成すべき寶はなく、それゆゑ、國民の權利感覺の涵養を圖
ることが國民に對する政治ヘ育の最高の、最も重要な課題の一つであるとされる。
このことからまさに「權利のための鬪爭」は「權利の啓蒙書」と評價されてゐるのである。