『ノーベル賞の舞台裏』(共同通信ロンドン支局取材班編、ちくま新書 2016)
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ところが、佐藤栄作の受賞はその露骨な受賞工作と合わせて国内外で大きな批判を巻き起こすことになる。

非核三原則への佐藤の姿勢は当時から疑問視されていた上、ベトナム戦争で米国を支持したことから、
日本では「ブラックユーモアだ」などど冷めた声が上がった。

さらに、米誌ワシントンポストとノルウェーの地元紙ダグブラデット(Dagbladet)は
同年10月12日付の記事で加瀬俊一(元国連大使)、鹿島建設の秘密工作を詳細に報じ、
ダグブラデットは「日本の大資本が平和賞を買った。委員会は騙された。」と受賞に疑問を呈した。

山中敏夫駐ノルウェー大使は記事が出た翌13日、本国に至急電を送り、報道内容を報告。
18日には再び極秘の至急電を打ち、
「委員会決定に対する批判は、佐藤氏のキャンペーン報道から委員会に対する非難攻撃となり、
委員会及び平和賞の在り方や権威に対する疑問論すら現れるに至っている。」
「賞の価値自体に対する不信の念が強まりつつある情況」と強い危機感を示している。


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佐藤のノーベル平和賞受賞工作をめぐっては、意外なところでもその証拠が見つかった。
ロンドンのナショナルアーカイブ、英国公文書館だ。

それは、当時の田中角栄首相を含む主要閣僚が佐藤をノーベル平和賞に推薦、
並行してウィルソン首相(労働党)に対し、佐藤受賞に向け支持表明を要請していたことを記録していた。

日本が政府全体で平和賞獲得に動いていたこと自体が興味深いが、
英国側は「佐藤には顕著な実績がない」として無視する方針を取ったことも判明した。