犠牲者多数の船舶事故への対応は韓国政権の“生命線”…外相自ら現地入りで信頼回復狙う
2019.6.1 10:29

 【ソウル=桜井紀雄】ハンガリーの首都ブダペストのドナウ川で遊覧船が沈没し、
韓国人7人が死亡、19人が行方不明となった事故で、
韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、
康京和(カン・ギョンファ)外相を現地に急派する異例の対応に出た。
背景には、2014年の旅客船セウォル号事故での対応の遅れが
朴槿恵(パク・クネ)前大統領退陣の遠因となり、
国民の生命の安全にかかわる問題が政権の今後を左右するとの危機感がある。

 「私たちは、生存者の捜索で最後の1人まで希望を失わないという強い思いで一致した」。
31日に現地入りした康氏は、ハンガリーの外務貿易相と記者会見し、こう強調した。

 文氏は5月30日に事故の一報を受けた直後から支援チームの派遣を指示するなど、
素早い対応に出た。セウォル号事故の被害者捜索も行った潜水士を含め、
消防庁や海軍、海洋警察などからなる支援チーム50人近くが現地に送り込まれた。

 文氏は急ぎハンガリーのオルバン首相と電話会談し、協力を要請。
事故対応に専念するため、日本の水産物禁輸をめぐる世界貿易機関(WTO)の
韓国「勝訴」の判断に貢献した公務員らを激励する30日の昼食会も直前に取りやめた。

 特に存在感を見せたのが外務省だ。
記者会見や報道資料で外国メディアを含めて頻繁に最新の救助状況を説明。
多数の死傷者を出した他の事故でも見られなかった手厚い広報態勢だ。

 高校生ら約300人が犠牲となったセウォル号事故では、朴氏が当日の動静が
不明だった「空白の7時間」をめぐって批判がやまず、弾劾まで尾を引く。
朴氏の対応を糾弾し、政権を取った文氏は、国民の生命の安全に関する対策を
最優先課題の一つに掲げた。

 文氏は北朝鮮との関係改善など外交策で保ってきた高い支持率が対北対話の停滞で低迷。
親北路線を批判して大統領府のホームページに寄せられた
文氏の弾劾を求める請願への賛同数が最近、20万人を超えた。
賛同が20万人を超えた請願には、政府が公式に立場を示す必要がある。
一方で、4月に大規模な山火事が起きた際は、迅速な対応が支持率の回復につながった。

 康氏は、外交面での失策や米韓首脳電話会談内容の漏洩(ろうえい)問題で進退を
問う声まで上がっている。外相自身が現地で陣頭指揮に立つ外務省の今回の異例対応は、
国内での批判をかわし、国民の信頼をつなぎ止めようとする狙いもありそうだ。

https://www.sankei.com/world/news/190601/wor1906010011-n1.html