ハゲじゃなくてカムロです

日本全国には、思わず「え?これなんて読むの」と尋ねたくなるような名字が山ほどある。
「小さいころは、ハゲ!ハゲ!とからかわれて、何度か喧嘩もしました。そんな失礼なことを言うのは本当に一部のイジメっ子だけでしたけど、アイツらの顔は一生忘れませんよ」

苦々しげな声で語るのは、九州地方に住む禿(かむろ)さん(男性)だ。
子供時代の苦い経験を乗り越えた禿さんだが、大人になるとまた別の苦労が待っていた。
「役所などで名前を伝えるとき『かむろ』では通じないと思い、仕方なく『ハゲと書いてかむろと読みます』と言うんです。

でも『禿』という漢字自体を普段使わないから、向こうの人が書けないんです。電話口でも名字の説明が大変なので、あるときから面倒になり、『カタカナでカムロで良いです』と伝えています」
北海道には住職を務める禿義廣さんがいる。この禿さんが「私自身はイジメられたことはないですが」と苦笑しながら、名字のルーツを語ってくれた。
「もともとは、浄土真宗の親鸞上人が自らのことを『愚禿(ぐとく)』と呼んだことに由来して、明治時代以降に名字として名乗っているパターンが多いそうです。
『愚かな禿』と書くのだけれど、髪のないという意味の禿ではなく、おかっぱ頭の童子、すなわち、まだ未熟で修行の途中にある人間という意味なんです」