アマテラスはもともと地方神だったからな。
天武天皇あたりで国家神・皇祖神をタカミムスヒからアマテラスに変更したと考えられるが、
それまでの伝統的な行事などは容易には改められなかった。
たとえば、朝廷で行われる重要な祭祀の際には、全国の有力社に神祇官から幣帛が献じられたが、
その順番は、奈良時代以降もタカミムスヒなどムスヒの神をはじめとする宮中神がいちばん最初で、
次に山城・大和など畿内の国々になり、そのあとで、伊勢の国に入ってはじめて伊勢神宮への奉幣となっていた。
斎部広成は古語拾遺で、アマテラスは皇祖神としてこの上なく尊い神であるのに、
奉幣の順番を諸神の後にもってくるのはなにごとかと憤慨している。
これはアマテラスが地方神だった時代の旧習が改められていない一つの例だ。
アマテラスが名実ともに総氏神・皇祖神になったのは、天皇が伊勢神宮参拝を開始した明治に入ってからだと思われる。
天皇みずから伊勢神宮へ参拝してこそ、総氏神・皇祖神としてのアマテラスという神話が説得力をもつことになるわけだからな。