西欧全体にたいしてフランスは日本の精髄の《受託者》たらんとするものであります。
この日本の精髄について全世界が甚だしい無知のなかにいるということを、どうか、しっかりと肝に銘じて
いただきたい。
全世界にとって日本とは、依然としてエキゾチズムか絵葉書風景の国、目もあやな、あの版画に描かれたかぎりの国に
すぎないのであります。さればフランスは、なによりさきに、こう表明しなければなりません――
日本は中国の一遺産ではない、なぜなら日本は、愛の感情、勇気の感情、死の感情において中国とは切りはなされて
いるから。
騎士道の民であるわれわれフランス人は、この武士道の民のなかに、多くの似かよった点を認めるようにつとむ
べきであろう。かつ、真の日本とは、世界最高の列のなかにあるこの国の十二世紀の偉大な画家たちであり、
隆信(藤原)であり、この国の音楽であって、断じてその版画に属する世界ではない、と。

アンドレ・マルロー
1958年、ド・ゴール政権、文化大臣時の来日講演より