ユダヤ・キリスト教圏における最初の殺人はカインのアベル殺し、すなわち兄弟殺しだった。カインは弟殺しの廉によりエデンの東、ノド(さすらいの地)に追放された。」
「カインの末裔からは猟師ヤバルと音楽家ユバルと鍛冶屋トバル・カインとが生まれた。これらいずれも大地に根拠を持たず、それゆえにたえずさすらっていなければならない者たちは、大地との確たる接触がないか希薄であるがために、足萎えや跛行といった足の欠陥が生じやすかった。それがエデンの東に追われた者たちの劫罰であり、それゆえにアベル殺しの末裔たちは跛行する鍛冶屋や音楽家たらざるを得なかった。兄弟殺しという血みどろの犯行と、音楽という美的創造行為、悪と美は、それゆえに原初から表裏の関係にあったのだ。」