全てのスポーツに言えることだが、技術と力は分けて考えなければならない。
VR(virtual reality)はあくまで技術向上策の一つにすぎない。
先人が行ってきた基本練習を重視した地道な努力を辿らず、VRによるゲーム
感覚のトレーニングが近道のように思えるのだろうが、実は遠回りである。
最新技術の導入はパワーで劣る野球部員にとっての奇策といえるが、そのような
手段を選択することが有利と思った時点で、勝利は遠ざかってゆく。
昨年勝ち点を取れたではないか、という向きもあるだろうが、それは東大の
弱点を突くことが下手な法政(選手ではなく監督)のお陰といえる。

食が細い選手が多い東大野球部には、パワー不足を解消しようという芽すら
摘んでしまう諦めにも似た体質が潜んでいる。筋力を付けるために肉を喰う。
この考え方はスポーツ選手なら共通する認識だが、実際、街のステーキ店には、
パワーアップが目的で来る人は少なく、ただ肉を食べたいだけの来店であろう。
最近は女性も多く、二十代と思しき女性の一人客が500gのサーロインステーキ
を注文したが、ひょっとしてスポーツ選手?と思わせる肉の厚みであった。
ステーキ好きで知られる沖縄の人々は、夜飲んだあとに〆でステーキを食べる
習慣があると聞くが、都内においても、二人連れの五十代の女性客が夜の10時
というのに400gのヒレステーキを注文し、ワインを飲みながら一気に平らげた。
休日は混雑する焼肉バイキングにおいても、女性客の割合が増加傾向にある。
まさに肉食女子の時代である。

肉食女子と今流行りの筋肉女子は必ずしも一致しないが、鶏肉を食べ、アスリートでも
ない彼女らが美容のために筋力を付けようする姿勢は立派だ。野球をする上で筋力を
付けるメリットは多いが、その認識が希薄な野球チームがあるとしたら、お粗末を通り
越して論外である。
東京六大学リーグにおいて、東大と他大の選手を動物に例えるなら、その力関係から、
どう見ても草食動物と肉食動物のように映る。
東大の選手は、肉食女子が忌み嫌う菜食主義者(ベジタリアン)ともいえる。
短時間で最大限のパワーを発揮しなければ話にならない野球において、それは
危機的な状況である。