>>91

彼は、バットをまるでテニスラケットのように振って、ライン際にスライスを打ったり、
反対方向にボレーしたり、深く守る外野陣の前にドロップショットを落としたりするかと思えば、
強烈なトップスピンの掛かったドライブショットを放ったりもする。
普通の打者が安定した一つのスィングを維持しようと苦労する中で、30歳のスズキは、グランドに叩きつけたり、
3塁手の頭上を越えるように軽く弾き返したり、内野の隙間を狙ってこっそりとセンター前に転がしたり、
外野手の間を深々と抜く一撃を放ったりなどするための、数え切れないほどの方法を編み出した。

出身地の日本でも珍しかった彼の数々のスィングは、対戦相手が事前に研究解明するのも、
ヒットを防ぐための守備隊形を敷くことをも不可能にしている。
それは、2001年には彼に新人賞とMVP賞をもたらし、今年も、ここまでに231本の安打を生み出す原因となっている。
シスラーの記録を抜くためには、スズキは残り19試合で27本の安打を打たなくてはならないが、
そんなことができるのは、彼しかいないのかもしれない。

●基本的なスィング(The Standard)   (中略)
●パワー・スィング(The Power Swing) (中略)
●叩きつけるスィング(The Chop)     (中略)
●軽く弾き返すスィング(The Flip)     (中略)
●守備の隙を狙うスィング(The Seeker)(中略)

メジャー4年目となる今季ほど、スズキの人気や実力が高レベルに達した事はない。
彼は、いまや、『イチロー』というファーストネームだけで、ほぼどこでもいつでも通用するようになった。
しかし、2001年に116勝を挙げたかつての仲間たちは、ほとんど全員いなくなってしまった。
親しい友人だったマイク・キャメロンも、今はメッツにいる。
シアトルのベースボールに関することのほとんどが、様変わりしてしまった。
そのままの姿で残っているのは、もはやスズキだけである。
彼の独特のプレースタイルと創造的ひらめきだけが、マリナーズを見続ける理由になってしまっているのだ。
たとえ、どれだけの種類のスィングが生まれて消えていこうとも、
スズキ本人は、変わることなくクラブハウスの自分のイスに収まったままだ。
たった一人で、魔法のバットとともに…。