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         偉大さとMVPは、イチローのもの
           ― スティーブ・ケリー ―   
http://seattletimes.nwsource.com/html/mariners/2001562267_kell20.html    
その昔、父に連れられてコニー・マック・スタジアムへフィラデルフィア・フィリーズ戦を見に行くと、
父は、スタン・ミュージアルやウィリー・メイズやロベルト・クレメンテの打順が回ってくる度に、
私をつついてこう言ったものだった。
「注意してよく観なさい。お前は、今、偉大な選手達を観ているんだよ。
決して忘れないように、目に焼き付けておきなさい―。」

あれから40年以上も経った今、イチローがフィールドに歩み出てくるたびに、
私は、同じ事を自分自身に言い聞かせるようにしている。
彼が打席に入ってユニフォームの肩の部分を摘む度に―。
そして、彼が無限の広さを持つ右中間に飛んだ飛球に、難なく追いついてみせるたびに…。
「よく観なさい。イチローが出ているんだよ。お前は、今、偉大な選手を観ているんだ。」
この競技で、彼のような選手は2人といないんだから…。

彼は、一発の強烈なノックアウトパンチが主流になってしまった時代のボクサーであり、
400フィートの一撃が持て囃される時代の洗練された技術者だ。
彼は、旧式野球の信奉者でも、モダン野球の推奨者でもない。
彼自身が、より高度な野球の本山のような存在なのである。
大蛇と見紛うばかりの逞しい二の腕はなくとも、
彼は、ロベルト・クレメンテばりのパーフェクトなスローを投げる事ができる。
また、木の幹の太さ程もあるマクグアイアのような脚はなくとも、
不思議なぐらい、ここぞという時には、ホームランも打つ事ができるのである。
イチローのプレーする野球は、彼にしか出来ない彼独自の野球―“必要な事ならなんでもする”という野球なのである。
今季、彼が打った11本のホームランのうち、8本は同点本塁打か勝ち越し本塁打だった。
メジャーへ来てから彼が打った27本のホームランのうち、18本は勝ち越し本塁打で、
20本はマリナーズに少なくとも同点以上をもたらしている。