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 浅草あさくさの仁王門におうもんの中に吊つった、火のともらない大提灯おおじょうちん。
提灯は次第に上へあがり、雑沓ざっとうした仲店なかみせを見渡すようになる。ただし
大提灯の下部だけは消え失せない。門の前に飛びかう無数の鳩はと。

          2

 雷門かみなりもんから縦に見た仲店。正面にはるかに仁王門が見える。樹木は皆枯れ木ばかり。

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 仲店の片側かたがわ。外套がいとうを着た男が一人ひとり、
十二三歳の少年と一しょにぶらぶら仲店を歩いている。
少年は父親の手を離れ、時々玩具屋おもちゃやの前に立ち止まったりする。
父親は勿論こう云う少年を時々叱ったりしないことはない。が、
稀まれには彼自身も少年のいることを忘れたように帽子屋ぼうしやの飾り窓などを眺めている。

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 こう云う親子の上半身じょうはんしん。父親はいかにも田舎者いなかものらしい、
無精髭ぶしょうひげを伸ばした男。少年は可愛かわいいと云うよりもむしろ可憐な顔をしている。
彼等の後うしろには雑沓した仲店。彼等はこちらへ歩いて来る。