ゼミの陽キャグループのノリについていけず遊びやコンパの誘いを断り続けたこかちゃは有り余る大学の余暇時間のすべてをクッキー☆に費やしていた。
パソコンにかじりついて不毛なネットサーフィンを繰り返し、大喜利やコラージュ画像でひとときキャハリと笑っては、その傍ら時折頭をよぎる嫌な記憶をヤケ酒で洗い流す日々。そんな冴えない生活からこかちゃを救ったのがクッキー☆だった。
面白いものに目がなかった幼少のこかちゃは小学校でインターネットを覚えるやいなや、ウェブサイトで見つけたおもしろ画像やフラッシュ動画の話を友達にふったり、時に気に入ったネタをパクり自分で考えたと嘘をついたりして楽しんでいた。しかし小学校高学年、中学と上がるにつれ周囲の会話は高等なものになり、おもしろ画像を話題に出さなければまともにコミュニケーションができないこかちゃは次第に教室の隅へと追いやられていった。その後もコミュ障と対人関係のトラウマを克服できずに高校、大学とも寂しい学校生活を送っていた。
そんな中たまたま見かけた界隈。東方projectなるノンケくさいコンテンツの、つまらない棒読みボイスドラマ。これをホモ達が寄って集ってネタにして、幾多ものMADが作られている界隈。こかちゃの目には、そんなゴミ捨て場から芸術を産み出すようなコミュニティが輝いて見えた。さらに、その頃クッキー☆ではMAD作者自身がボイスドラマを作り、その声優で動画を作るのがブームであった。その永久機関の先導者しりりの勇姿を目にして、こんな楽しみ方があるんだあ...とこかちゃは心の躍動を抑えることができず、パープルの講座を熟読し機械オンチと戦いながらAviutlを導入すると、すぐさまツイッターバズりネタを片っ端からパクりはじめた。何でもできる、人気者の「しりり兄貴」に近づくために。
その後こかちゃは人口が激減し荒廃したクッキー☆の再興に努めるのだが、荒廃の原因がまさに自分が尊敬し背中を追いかけたしりりであったことなど知る由もなかった。