最初の頃の小林誠氏というと高名という名の価値感に身を委ねるという楽観主義の虜となっていた。
(私は補佐役に過ぎないのだ。福井の福と副監督の副、同じフクでも意味合いがまるで違う。
宇宙戦艦ヤマトのコウノトリ、ヤマトに幸をもたらしてくれる福という存在、福が卵を産んでくれるのだ、私はその卵を温める鳥の巣の役割に徹しようではないか。それが副という言葉に相応しいのだから)
しかし小林誠氏の巣ごもりの姿勢は開始早々脆くも崩れ去ってしまったのである。
小林誠氏の体温はみるみるうちに下がっていった。というか凍てついてしまう程の冷気を伴った出会いであった。
そう、福井晴敏との第1種接近遭遇である。
小林誠氏の前に差し出された数枚の紙。コピー仕立ての生暖かさを伴って現れたのはヨレヨレのシャツにダボダボのジーンズというお馴染みの外見の男。
機動戦士ガンダムの宇宙世紀の再編を成し遂げた男から滲み出る威厳に満ちた風格が漂っていた。
その独特なオーラと既視感に包まれた小林誠氏は物怖じの感情に囚われてしまったのである。彼に着いていけば上手くいく筈だ、福を運ぶコウノトリが産む卵を温める巣になればいいんだな…しかし!である。
差し出された紙というのはコウノトリがしたためてきた構成案であった。
それを読み終わった途端、小林誠氏の巣は急激な冷気に包まれて、か細い枝と枝の隙間から吹き上げてくる軽薄な風によって粉々に解体してしまったのである。
(私の目論見は浅はかであった。それにも増してさらに浅はか、いや、ペラッペラのあらすじ擬きのコレはなんなんだ?はあ?)
小林誠氏の浅はかな目論見という名の巣はバラバラになって寒空の下へ放り出されてしまったのである。呆然と立ち尽くす小林誠氏。
ふと隣を見るとやはり呆然と立ち尽くす1人の男がいた。羽原信義である。
「小林さん、これからどうすればいいのか…」
途方に暮れた2人はトボトボと帰路につく。
「どこに帰ればいいのか、まるで分からなくなってしまったよ」
育児拒否をされた迷子の卵が2つ、コウノトリは去った。だけど我々は独力で産まれてこなけらばならないのだ。
溜息をつく卵たち。悲観主義に囚われた卵たち。転がり落ちていく卵たち。
あぁどこへ向かうのだろう…
荒野は広がるばかりである。