「気のせいか・・」而留弥が前を見据えた。「いや、おい、漣児」御令須が鞘を腰に戻した。
「分かっている。近い」それまで片膝を付いて屈んでいた漣児が立ちあがった。しかし、屹立して振り向かない。
素知らぬ態度で身振りをし、当たりの気配を伺った。「気のせいかな?・・」漣児は両手を少し広げて掌を見せた。
 御令須達、彼らがいる道の開けた場所の先にある林の中で不穏の気配が澱んでいた。
気配を抑え息を殺す。参団は木に寄り掛かり、その向かう先に籠る気をまるで感じていない。 
「他の者たちはそのままだ。お前、この矢を撃ち放せ」臥土は手前の仲間に向き直り、身の丈程もある矢の先あたりを掴んだ。
乱波弩錬隊が大きな弩を構えている。「構わん。いいから、そのまま撃て!」
愉む笑みの混ざる睨みに気圧され、大きな矢が放たれた。撓る強い反動で弩を構える手下仲間も半ば手元が小躍りした。
 弦が起こす強い擦過を、腕の睨みでそのまま気圧し握りしめ、そのまま弩錬隊に黙して笑らって見せた。
片腕を斜め上に伸ばし、体を反らし投擲の構えを取った。瞬間、広く振りかぶる臥土は目を剥き、その大きな矢を投げ放った。
鋭く風を裂き尖端の塊が飛んできた。臥土の吐き出された呼気は重く、その怒気は悦を持ち、何かを求める語気である。